1. 心の在り方
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たとえ若造でも……2

そうして一週間に一度このやりとりが行われ、気が付けば三ヶ月近く続いていた。僕も自分でよくここまでやり続けたなと思う。おかげで砂羽のことがかなりわかってそっちの方が嬉しかった。竜矢も同じ気持ちらしい。ここまでわかれば上出来だと言っていた。

それにしても砂羽は鈍感というか気にしないというか結局個人情報がダダ漏れになってしまった。本人がもっと!もっと!というのだからいいのか。

僕の方はというとようやく本格的に本が出来上がってきていた。
久しぶりに報告してみよう。

「おかげで色々とわかってきたよ」
「それはよかったです。創作性だけでなく、小説の方の足しにもなって、かなり進んだんですよ。これも竜矢さんのおかげですね」

「ふぅん」
いつも優しい竜矢が乗ってこない。
一瞬アレっ?と思ったが、気にせず話しを続けた。が、すぐに竜矢がさえぎった。

「どんな内容書いてるんだっけ」

そういえば小説を書いているとは言ったが、どんな内容を書いているかまでは言っていなかった。特に聞かれていたわけでもなかったし、話す必要もないと思っていたので気に留めていなかった。

「恋愛小説を書いています」

そういう僕をあざけり笑うように竜矢は言い放った。

「傑作だな。そりゃ。確かまだ三十歳くらいだったよな?そんな若僧に恋愛小説なんて書けるのかね。恋愛の何がわかるっていうんだ。どうせつまらないんだから、端から諦めた方がいいよ」

「またまた、冗談やめてくださいよ。冗談がきつすぎですって」

「お前、まだ気がつかないの?もうお前は用済みってこと。俺はお前を使って砂羽の情報を引き出したかっただけなの。お前の恋愛ごっこ遊びはおしまい。これからは俺が大人の恋愛をみせてやるからせいぜい遊びの材料にでも使いなよ。砂羽と仲良くなったなんて思うなよ?砂羽はお前なんか眼中にないんだから」

突然の衝撃に僕はすっかりと戦意を失った。

「さて、そろそろか」そう言うと竜矢はカウンターの下から立派なひまわりの花束を取り出した。わざわざ勝ち誇った顔を見せたまま。

そこへ何も知らない砂羽がいつも通りやってきた。
いつもの時間いつもの場所いつもの笑顔。ただ僕だけがいつもとは違う。
そんな様子を砂羽はすぐに察知し、僕に話しかける。

「どうしたんです?元気…ないんです」
すると、僕がしゃべるよりも早く竜矢が答えた。
「友晃、仕事で大きな失敗をしちゃったんだって。今はそっとしておいてあげよう」

「そうなんです?ミスなんて気にしないんでくださいね?」

「それよりさ、じゃん!ほらっ、砂羽が好きなひまわり。花屋さんの前を通りかかったら偶然目に入ってさ、おもわず手にとってたんだ。きっと砂羽なら喜ぶかなって。はい、プレゼント!」

大好きなひまわりを前に砂羽はパァーッと明るい表情を見せた。
その後はどうなったか覚えていない。竜矢に裏切られたショックと目の前で仲良くされているショックと傷つけられたショックとで呆然としているだけだった。

覚えているのは、砂羽の肩に手を回して出て行った竜矢の憎たらしい顔だけだ。
僕はこいつに、こんなやつに負けた。

二時間ほど経過した頃だろうか。
突然、激しく息を切らした砂羽が店に戻ってきた!
砂羽の手に持つ鮮やかなひまわりの花束が今は痛い。

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「はぁはぁはぁ。ちょ、ちょっと待つんです」

「ど、どうしたんです?あいつ…あっ、竜矢さんと何かあったんですか?」

「はぁはぁ。やっと息が整ってきたんです」

フゥと一息ついてから砂羽は続けた。

「その、気になったんです。君が元気ないんですって。だから、私戻ってきたんです。取材があるって嘘ついちゃったんです。やっぱり竜矢と何かあったんです?」

いや、本当に何もないと言ったが、「いいから全て言うんです!!」という砂羽の珍しく強い口調に情けなくも洗いざらい話すことになった。

小説家を目指していたこと、竜矢がよくしてくれていたのは情報を聞き出すためだったこと、そして僕のことを思い切りけなしてきたこと。僕が砂羽に恋心を抱いていることだけは言い出せなかった。

話し終えると砂羽は黙ったまま店を出て行ってしまった。
やはり話さない方が良かった。僕は本当に情けないやつだ。

と、砂羽がまた店に戻ってきた。
手にはひまわりの花束がない。

「ひまわり捨ててこれなかったんで、歩いているおじさんにあげてきたんです!」

人の良さにおもわず、ふふっと笑ってしまった。

「あっ、やっと笑ったんです!」
よかったと言う砂羽もとても可愛い。

「あの、砂羽さんも竜矢の言う通りだと思います?たしかに竜矢が言っていることはもっともだし、もっと経験してからやるべきなんだと思います。僕にはまだ早すぎたのかなって」

砂羽は腕を組み、考え込む仕草を見せた。
「ひどい話ですよね。私は全くそうは思わないんです。実は私も小説家になりたての頃、同じようなことで悩んでいたんです。その頃の師匠に私もおんなじように質問をしたんです。そしたら、師匠はこう言ったんです。

「んー。確かにそうだね。それは正論だと思う。ただ正論だからと言って正しいわけではないかな。確かに若い人に人生の何がわかるのだという話をしたくなる気持ちもわかる。

だが、それまでに経験したという事実に変わりはない。それに歳をとったから経験が多いのかと言われれば、それも不明だ。なぜなら、経験の多さは確かに歳を取れば取るほど多くなるものの、同じような経験というものはたいてい何度もするものではないからだ。

ということは一年前の経験というのは十年経とうが二十年経とうが情報の進化をすることはないということでもある。

つまり、その情報を今出そうが十年後に出そうが、事実自体は何も変わらないということだ。だから、若いからということを気にする必要はない。感じ方や表現の仕方、技術に差はあれど、情報の質に変化はないのだ。若くてもあなたの経験には価値がある。思い切って出しなさい」

と。それに、私はこうも思うんです。

良い経験・悪い経験をしていたところでそれを人に伝えないのであれば、その経験や知恵は人に共有されることはない。つまり、共有されないのであれば、その人がいくら優れていようとその恩恵を授かることは永遠にないということである。

例え少ない経験だったとしても人と共有したとすれば、それは誰かのためになることもあるにも関わらずだ。だから、まだ経験のないものだからという理由で後ずさりすることはやめるべきなのだ。と」

うっかり師匠の口調になってしまったんですという砂羽のお茶目さにすっかりと癒された。

「それにしても許せないんです。引導をくれてやるんです」

たとえ若造でも…3へ続く。

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