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ぶっ飛び経営者【3】渦巻く世界

三十社ほどインタビューを終えたところで、小金井はディレクターと応接間で面談を行なった。このインタビュー結果をまとめ、次のステップへ行く打ち合わせをする。

「どうでしょうか?市場の反応は?」

「どの企業・個人事業主もやはり手が回らず困り果てているようです。このサービスがあれば良いとどこへ訪問しても言っていただけました」

「そうですか!小金井さんの挙げているインタビュー記事も面白いと好評をいただいていますからね。それでは調査はここで一度終わりにして、契約を取って行く段階へと移行致しましょう。うちがやる前に競合が出てきたら困りますからね。

金額設定・仕組みも整っているので、バンバン取ってきてもらって構わないですよ」

「それでは、一番需要があると見込まれる個人事業主をターゲットにして展開していきます」

その後、金額や導入後の支援内容など、プロジェクトの最後の詰めを綿密に話し合った。
プロジェクトがうまくいっていることに一安心し、小金井は応接間を出た。

早速このプロジェクトに取り掛かろうと、溜まり込んでいたインタビュー記事起こしの作業を終わらせに猛烈な勢いで手を動かす。そんな様子を見た佐野がデスクへと寄ってくる。

「よう、なんだか調子いいみたいだな」

「ああ、佐野か。すまない、今忙しいんだ」

「ふんっ、偉くなったもんだ!お前はいいよなっ。たまたまディレクターの御眼鏡に適ってよ!」
佐野のこの言動に小金井はカチンときたが、一瞬手を止めただけで、また元の作業に戻った。

「ああ、佐野の言うとおりだ。俺が特に何かをしたわけではない。運が良かっただけだよ」

「全く、同じ普通の俺らなのになぜ、小金井にだけ幸運が舞い降りたのかね。しらけてしょうがねえ」
佐野は言うだけ言うとすぐに自分の席へと戻っていった。
なんだよ、普通って…!そりゃあ、三上さんやあの経営者たちに比べたらそうかもしれないけど…俺だって上手くやってる!

今のはいただけねえ!言い返してやる!

「頼まれた仕事を上手くこなせてんのは俺の実力なんだよ!」そう言おうと席を立ち上がった時、小金井の携帯がブルブルと震えた。見ると中城からである。小金井は去りゆく佐野の後ろ姿を睨みつけたまま、電話に出た。

「あっ、小金井さん?先日また面白いサービスを展開しているクレイジーな男に会いましてね。是非とも、小金井さんにご紹介させていただこうと思って掛けたんです。もうとびっきりのクレイジーなやつですよ!資産を全額…」

「中城さん、ご連絡ありがとうございます。

…でも、もうご紹介なさらなくて結構です。当社の方針として、より手が回っていない個人事業主をメインターゲットとすることになりましたので」
小金井は少し負の感情が残ったまま突き放すように話した。

「そうですか。それは残念でした、お忙しいところを失礼しました」

電話が切れ、小金井は佐野のデスクへ向かうも佐野の姿はどこにもなかった。

「佐野は!!」
小金井は近くにいたものに怒鳴るように問いかける。

「佐野さんなら飯食って帰るわ〜って言って出ていきましたよ?」

「くそがっ!」
やり場のない怒りだけがその場に留まっていた。
気を取り直して、小金井は自分の作業に取り掛かり、溜まっていた記事起こしを終わらせた。

あくる日小金井は、調査の時、特に高評価をいただいていた個人事業主にアポイントを取り、提案する機会を得た。プロジェクト始動後初の導入提案となる。しかし、小金井はこのことをそこまで気にする様子はなかった。

事前に調査をした時にすでにこんなサービスがあったら良いと言われていたからである。ただたんにお待ちどうさまですと言ってサービスの説明をすれば良いだけの話だ。

だが、どうやらそんな簡単な話ではないようだった。

小金井がサービスの説明を行うと顧客はすぐさま好反応を示した。しかし、金額面の話をし始めた時、事業主の顔が引きつり始めた。いざ契約内容を話すと、こう伝えてきた。

「小金井さん、すまない。その内容じゃお願いすることはできない」

「それはどういうことです?」

「いやあ、実は以前にも大手企業から似たようなサービスを受けたことがあってね。それで、何度か試したことがあるんだ。だけど、金額に対して全く効果がなくてね。今回のサービス、とても良いと思うんだけど、サービス内容がその大手のサービスと酷似しているんだよ。

だから元を取れる気がしなくてね。欲しいとは思ったものの資金を投入するまでにはいかないかな」

「いや、しかし当社のサービスはそういったサービスとは一線を画しておりまして、導入メリットは大いにあります!」
予期せぬ返答に小金井は焦る。

「すまない、もうそういうことにかけられる資金力がないんだ」

「しかし!」
小金井を見つめる事業主の顔は苦いものでも噛み潰したかのような険しい顔をしており、これ以上物を言うことができなかった。

小金井は事業主のオフィスを後にした。
気を取り直して、次の事業主の元へ向かう。だが、次の訪問先でもそのまた次の訪問先でも同様の理由で断られた。どの事業主にも小金井の必死な思いは届かなかった。結局この日は何も収穫がないまま社へと戻る。

翌日も小金井は個人事業主を訪れたが、この日も軒並み断られた。その翌日もまたその翌日も翌週も翌々週も。
結果が出ないまま、ひと月ほどが経過した。どの事業主からも好評価をいただいていただけにこの現実は辛い。

ディレクターからの圧も日を増すごとに増していき、社内でも不穏な空気が漂っていた。

小金井はディレクターと改善策を話し合い、再度事業主を回っていった。
すると、耳を疑うことを聞いた。なんと、同様のサービスが他社からビジフリー社よりも安い価格で提供されているというのだ。それはとてもではないが、ビジフリー社には手が出せない金額であった。そしてこの事業主はこの価格ならとあっさり手を打ってしまったらしい。

そのライバル社はすごい勢いで市場を駆け巡り、あっという間にシェアを獲得していった。どうにかしようとしがみつく形でお願いしたが、どの事業主も首を縦に降ることはなかった。

この日も成果を何一つあげることができなかった小金井の足取りは重く、どこかに消え去りたいと思う気持ちがはびこっていた。
社に帰るなり、ディレクターが駆け寄ってくる。小金井は状況を説明した。

「そ、それは…非常にまずいな……」
それだけ言うとディレクターは黙り込んでしまった。
しばらく黙り込んだ後、ディレクターは小金井に状況の説明を行なった。

「実は本体の方も業績を落としていまして、今非常に苦しい時期に差し掛かっているのです。そこで幅を広げようとこの企画を始動させましたが、競合があれほどまでやってくるとなると…こちらも手が出ませんね」
そしてディレクターは続けてこう言った。

「残念ですが…このプロジェクトは撤退しましょう」
場は一気に重苦しい雰囲気に包まれる。

「いえ、しかしまだ顧客を回りきれていません!もう少し頑張らせてもらえませんか?!」
小金井は必死に想いを伝える。

「小金井さんのお気持ちはよくわかります。ですが、これ以上やってもおそらく勝ち目はないでしょう。それなら早々に撤退すべきなのです。これは…仕方のないことなのです」
ディレクターはうつむき唇を噛み締めていた。

結局このプロジェクトは半年間という短い期間で終わりを告げた。
小金井は与えられていた任務を取り上げられ、また元の業務へ戻る。大きなチャンスを失った。次のチャンスはもう来ないだろう。果たして、元の業務に仕事は残されているのだろうか?希望は全て失われ一気に絶望へと変貌を遂げた。

社の期待を背負って立ち上げたのに失敗したのだから、いっそのこと責任を取って社を去ったほうがいいのかもしれない。この日小金井は茫然自失になり、なにも手がつかなくなってしまった。その帰り道、小金井は首を切られたらどうなるのだろう…ということを悶々と考え続けていた。

ぶっ飛び経営者4へ続く

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