1. 心の在り方
  2. 9 view

いつもそこに【3】根拠探しの旅

九月に入り、少し過ごしやすくなったある日の平日。
またも大政からメッセージが届く。
「大切な知らせ」

ああ、とても嫌な予感がする。これは絶対に嫌なお知らせだ。絶対にそうに違いない。
充弘は自分の溜まり込んでいる仕事を投げ出し、定時で社を上がり、大急ぎで特急電車に乗り込んだ。八王子駅に着くと大急ぎで『くりっと』まで走り込む。

店に着くとすでに全員が揃って何やら話し合いを行っていた。
皆、神妙な面持ちで話をしている。たえさんが充弘に気がつくと、おいでと手招きをした。

だいたい決まってるんだけど。そう前置きをしてから大政が説明をする。
「この店を潰して、新しい店をオープンさせる」

突然の発表に何も反応ができない。
大政は何を言っているのだろうか?理解が追いつかないまま、話が続く。

「新しいお店のコンセプト、長岡さんにもかなり案を出してもらっ…」
「いやいやいやいや。コーヒーマシン導入したばっかりだよ?」
「大丈夫。次の店でも使う」
「とはいえ、なんで急にこんな話になったのよ?」

「その点は私から説明させていただきましょう。お兄さん」
もはやお兄さんじゃねえと突っ込むことすらどうでもよくなっていた。黙っている充弘に長岡は説明を始める。

「簡単な話です。今のままでは店の経営は悪くなる一方でしょう。このまま続けてジリ貧で破滅するか。ワークシフトして、成功するための努力をするか。大政さんはワークシフトすることを決断なさったのです」
そして、長岡はこれからの傾向をくどくどと話した。

「というわけで、新しい店。春先にオープンするオフィスビルに合わせて、顧客層をビジネスマンに。十月まで案を出して、そこから内容変える」
長岡が話し終わると大政がまとめた。女性陣から異論は出て来ない。

「ちょっと待ってよ!話はわかったけど、根拠はあるのね?」
すると、大政は呆れた様子で深くため息をつき、こう答える。

「はぁ。ない」
「またかよ!」
「そっちこそ。ダメなことは明確」
「そりゃあそうだけど、もっと根拠を突き詰めてからやった方がいいって」
「自分で探して」
大政は全く聞く耳を持たず、ではどんな案がいいか話し合おうと議題を持ちかけた。

それから二時間近く話し合いを行っていたが、その間充弘は一言も話さずにいた。
皆が解散して、充弘と大政だけがその場に残る。

「やるの?」
大政が充弘に質問する。
「………」
「やんなくていい」
それだけ言うと大政は立ち去ろうと席を立ち上がる。
「やるよ、やる。このままじゃ潰れるってのは一理あるからね。ただ、根拠は探し続けるよ」

充弘は家に帰るとすぐインターネットで調べ物をした。

その数日後、充弘は仕事から帰り、郵便受けを確認する。

「きたきた。費用はかさむけど、投資だと思えばうん」
早速届いた書類に記載をして投函ボックスへと入れる。
「これでOKと。あとは期日を待つばかりだ」

十月頭。充弘は仕事帰りに新宿にあるビルを訪れていた。
エレベーターに乗り込み目的の4Fを目指す。

スポンサーリンク

フロアに到着し、右に曲がるとすぐに受付嬢から
「こんばんは、今日からの方ですか?」と声を掛けられる。
充弘は、はいそうです。と言うと簡単な説明を受けたのち、左奥にある部屋へと案内された。

そこには二十名ほどが、座れる空間があり、もうすでに半数近くが座っていた。
充弘は入り口付近の椅子に陣取り、机の上に並べられているものに目を通す。

予定時刻に近づいてきたあたりで席は満席に近い状況になった。
すると、前のドアから講師らしき人が現れ、準備をし始めた。
「では、そろそろ始めようか」
その講師らしき人物が口を開いた時、後ろから甲高い声が響き渡った。

「すみまっせーん!遅くなりました!!仕事遅くなっちゃってー!」
バタバタと転がり込むように入ってきた彼女は充弘の隣の席に座った。
「あたし、若狭 小百合(わかさ さゆり)!よろしくねっ!」
充弘がボソボソと自己紹介をすると、「えっ?!なに!?よく聞こえないっ!」という声とともに講師らしき人の「ゴホン」という咳払いが場に広がった。

そして一時間の講義を終え、休憩時間になると充弘と小百合は改めて、自己紹介をした。

「あたしはさ、ここでビジネスを学んで、起業するんだっ!有名なビジネス経営スクールって聞いてたしさっ!充弘はさ、なんでここに来たの?」

「えっ、ああ。新しく店をやり始めることになってね。根拠や理論って大事だろ?それを学ぶためにね」

「ふ〜ん、そうなんだ〜。あたしはそうは思わないけどな。確かに大事だけどさ、なくても進まなきゃいけない時だってたくさんあるじゃない?あたしも不安定だからって、散々起業に反対されてきたけど、全部無視してきたわ。大人の言うことなんて聞いてたら、つまらない人生になるだけじゃないっ!」

初対面でもうすでに呼び捨てされていた充弘は、特にそのことを気にしていたわけではないが、ついおせっかいを焼いた。

「人の考えにとやかく言うつもりはないよ。夢を持っていることって良いことだから。ただ、もっと女らしくしたらどうなの?もっとおしとやかにだね…」
と、充弘が言い終わる前に怒号の声をあげた。

「なによそれ!女らしくなんてあんたに言われる筋合いないわっ!それに女らしくってなんなのよ!偏見じゃないっ!もっとましな奴かと思ったけど、とんだ見込み違いだったようね。もうあなたと話は終わりよ。二度と会話することもないわ」
ふんっ!と言うと小百合はそっぽを向いたまま黙り込んでしまった。

なんだこの女。充弘は心の中でそう呟き、二限目の講義を聴いた。

二限目が終わると、そそくさと帰るもの、教室内で談笑を開始するもの、打ち解けの意味を込めて、会合を企画するものとバラバラになり始めた。ここは全員が会社に帰属、もしくは起業をしている面々のビジネス夜間経営スクール。

週に一度、半年ほど通いつめて、ビジネスアイデアの出し方やその経営方法を学ぶ。その仲間を集めること、新たなアイデアを見つけることも目的としているものもいるのだろう。

充弘は簡単な名刺交換を幾人かと行い、席を後にすることにした。
帰り際、充弘は声を掛けられ呼び止められる。

「ねえ、君。君もこの後の飲み会に参加しない?ほら、隣に座っていた若狭さんも参加してくれるみたいだからさ。あの子面白いね。どう来るでしょ?」
その男性が親指で指した先の小百合は、充弘のことを睨みつけるように見ていた。

「いえ、すみません。私はまだお店の準備に追われていますので」
準備に追われているのは確かだったが、逃げるようにするのが癪(しゃく)で、またしても鬱憤を溜め込んだ。

いつもそこに【4】へ続く

心の在り方の最近記事

  1. 家にいる時のルールと母の過ごし方。ラインスタンプを作った過去と気づかない才能

  2. リバウンドから4か月目突入!見た目で驚かれる辛さを乗り越え顔に変化が♪

  3. 会社に期待できない人がやれる逆説的突破術!

  4. 後から振り返って後悔しないために、冷静な判断が出来るようにする

  5. なぜ我々は納豆にタレをかけるのかがわかれば、サービスが加速する

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


著書紹介


特集記事

作田勇次の思うてること

PAGE TOP