1. 心の在り方
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もう一つの原動力

夢に向かう原動力って何?そんな風に聞かれれば、情熱とか野望とか答えるのが一般的だろう。だが、もう一つ忘れてはならないものがある。そのことに気がつくまでにはすごく時間がかかったし、気がついた後でもすぐには納得できなかった。

人生の何が面白いかって言えば、そういう予期せぬことがとてもパワーになっているということだろう。こんなこと誰が想像できただろうか?

私も一切信じていなかった。本当にそんなものが?と思ってしまうほどだったからだ。でも、これが本当だったらすごく人生って可笑しくて愉快なもんだと思わないかな?

太田 直樹が理想とする職にありつくことを決意し始めたころから、一緒に夢を追いかけることを約束した友がいる。彼の名は木村 健一。直樹と健一はとあるオンラインサロンで知り合った。

二人は共にサラリーマンとして仕事に就いている。直樹は同業種内でいくつかの会社を渡り歩いてきた経験を持つ。
健一はというと企画開発、整備士、肉体労働、営業と転々と他業種を渡り歩いてきた。

お互い転職も多く、苦労をしてきたこともあって、二人はすぐに打ち解けることができた。特にそうしようとは思っていなかったのだが、直樹の年齢が健一よりも一回りも下だったため、健一が兄貴的な存在となり、直樹は健一をよく慕っていた。健一の方も直樹のことを本当の弟のように想っており、その関係はとても良いものであった。

直樹と健一はサロン外でもよく連絡を取り合う。ほぼ毎日といっても良いほど意見交換をしている。夢に向かう近況報告、新たに取得したスキルのこと、新たな出会いがあったこと、お互いの思考、今興味を持って追っかけていること。

これらの意見をぶつけ合うことで互いに成長を感じ、着実に夢に駒を進めている実感を持てた。時には、現在の職場環境のことを愚痴り合うこともあった。その度、互いを励まし合い意欲を保つことが出来ている。職や年齢は違うが、共に夢を叶えるという目標が二人の距離を縮めていた。

健一は本当に面倒見が良い。直樹に困ったことがあれば、すぐ解決策を共に考え、直樹のことを支える。辛い時には俺に頼れというのが健一の持論だ。健一はその経験の豊富さから直樹に合った解決策を見つけることが出来ていた。

常に一歩先を歩く健一はまさに兄貴分といった様子で、この辺りの関係が自然と立ち位置を決めたのだろう。先に行動を起こしているのも健一であることが多いということからも、どんな相手であろうと我を押し通してしまう直樹の性格から言ったとしても。
というのも直樹はとてつもないほどの負けず嫌いなのである。

前に一度、仕事のアドバイスをした時、健一は直樹にそこは妥協して他に譲った方がいいというアドバイスを行なった。
すると、直樹はそれまでの受け入れる様子とは異なり、それは嫌ですとはっきりと言ってきたのだ。できるできないという答えではなく、嫌だという回答をされた時、健一は直樹の負けず嫌いを悟った。

健一はそんなところも受け入れ、優しく面倒を見ている。もっとも当人たちにはそんな自覚はないのだが。

二人はもともと人生を変えたいと思ってオンラインサロンに入った。そんな二人だから常に脱却という二文字が頭の中をよぎっていた。どうしたら現状の苦しい生活を逃れることができるのだろうか。

互いに個々の目標に向かい、努力をし続けていたが、思うような成果は見られなかった。二人が連絡を取り合うようになってから二年が経過したが、直樹の生活に変化らしい変化は見えてこなかった。まだ努力が実らずにいたのだ。

一方の健一にはようやく幸福が舞い降り始めていた。そのきっかけを元に独立への道が一気に開いたように思える。やっと一筋の光が差し込んできたのだ。健一は大いに喜んだ。いの一番に直樹に報告した。直樹もその様子に喜びのメッセージを返事に書いた。

ただ、実を言うとそれは直樹の本心ではない。直樹も健一も共に辛い思いを経験してきた。だから、本当はまっすぐと向き合って応援したいと思っていた。直樹にとっても兄貴的な存在で今まで面倒を見てくれた健一が売れることは嬉しいことには違いなかった。違いなかったのだが、素直に喜ぶことが出来なかったのだ。

実際に健一の成功を目の当たりにすると、直樹の幼稚な心が湧き出してくる。それよりも同じくらい努力をしているはずの自分がなぜ恵まれないのかという嫉妬に心を飲み込まれていた。

その間に直樹と健一との差はますます大きなものとなり、その心はより深刻なものへと変わっていった。

健一は自らの夢が軌道に乗り始めたとしても相も変わらず、直樹に優しく接し続けていた。友である直樹に意見を求める姿勢も崩すことはなかった。だが、直樹の方が健一を受け入れることはなくなってきた。

直樹はもう自分と健一が連絡を取り合う必要もないと思っていたし、直樹に意見を求める必要もないと思っていた。成功した健一とまだ成功していない直樹とでは釣り合いが合わない。一方的に健一から連絡がきたが、直樹は徐々にフェードアウトするように連絡を返さなかった。

それからしばらく直樹はやさぐれた。何もやる気が起きない日々が続き、今の仕事でもいいかと妥協を覚え始めていた。少し嫌なことさえ我慢できれば、この環境はゆるいし、悪くないのだから、と。直樹は健一にせめてもの償いに最後にメッセージを送った。

「もう諦めます」
健一からの返事は何ヶ月経っても返ってこなかった。

オンラインサロンも辞め、半年が経過し現状にすっかり甘んじた頃、突如として直樹は自分が夢を追いかけるようになったきっかけを思い出した。それは上司から理不尽な要求を突きつけられたからだ。

上司は定時になる少し前に直樹のデスクにやって来て、四百枚の資料が入ったデータを手渡した。明日の朝までにこの山のようにあるデータの中から必要な情報だけを抜き出し、五枚の資料としてまとめろというのだ。

それも具体的な指示など一切行わず、上司は定時になるとさっさと帰ってしまった。どこをポイントにしたら良いのかもわからず、誰をターゲットにしているかもわからないという手探りの状況で直樹は完成させなくてはならなかった。

困り果てた直樹は仕方なく、上司の携帯に連絡を入れた。自分に非があるわけではない。これは当たり前のことだ。そう思ったことも虚しく上司は直樹からの要求をことごとく無視した。

久々に感じる不快な思いに直樹は思い出した。以前にもこのようなことがあった。ちょうど三年前のこの季節。社の繁忙期に同様の理不尽な要求を突きつけられていたのだ。そしてその時、絶対に辞めてやると心に誓っていたことをようやく思い出した。

健一と連絡を取らなくなってからぬるま湯に浸かり続けて、この感情を忘れてしまっていたのだ。強烈な痛みが心の隅々まで染み渡る。その痛みをずっしりと全身で感じながら、その日はほぼ徹夜で作業をし続けた。

翌朝、直樹は上司からこっぴどく叱られた。内容が何一つまとまっていない。納期も守れないとは役に立たないやつだと容赦がない。直樹は理不尽な点を言い返したが、自分の能力の無さを人のせいにするなと聞き入れてもらえない。

直樹は拳を握りしめ、退職の意を述べようと思ったが、踏みとどまった。否、踏みとどまるしかなかった。次の道がまだ見えていないからである。直樹は黙って理不尽な内容を飲み込んだ。

こんな時、いつも頼りになるのは健一だったが、今さらメッセージを送ることもできない。健一だったら、どう立ち向かうのだろうか。あんなメッセージを送らなければよかったなと直樹は後悔した。嫉妬などしてこの半年間を無駄にしてしまったことも後悔した。

その後悔は直樹を本気で考えさせた。何度も健一とのメッセージを振り返る。勇気を出してメッセージを送ろうと思っても、文字を打つ手が途中で止まり、全て消去してしまう。はじめの言葉には何を持って来たらいいだろうか。

こんにちは
お元気ですか
夢の状況はいかがですか

どれもつまらない。

結局、いまの思いを全て伝えることにした。
あの時は嫉妬をしてしまいましたすみません、と。共に夢を目指す仲間なのに、足を引っ張るような思考を持ってしまったことを詫び、また夢を目指しても良いか、と。僕は今三年前の理不尽な状況を再現し、あらゆることを後悔していると綴った。

これでいい。返信がなくても、一人で努力はし続ける。だけど、あの時のけじめだ。これは送らなくてはならない。そう思うも、なかなか送信ボタンが押せない。押してしまえばいいだけなのに、これまでのことを考えるとボタンを押す手が止まる。直樹は胸に手を当て、目をつむってゆっくりと深呼吸をした。同じ後悔をするのなら…

すると、その数時間後には健一から連絡が返ってきた。内容は以前に連絡を取り合っていた時と同様で、文章に優しさが感じられる。健一は直樹のことを少しも怒っていなかったというのだ。

積もる話もそこそこに健一から今の状況をどうすべきかを助言された。と言ってもこれは知り合った時から言い合っていたことで、解決策というわけではない。その理不尽さを回避するためには自分の力で夢を掴み取り、その場から脱却するしかないのだと。そのことを健一は改めて伝えた。

「にしてもさあ、風邪はいいよねえ。人生に何が大切なことなのかを教えてくれる」
突然、健一からこうメッセージが来た。直樹の理解が進まないまま、健一は続ける。

「風邪を引くのは辛いよね。身体から痛みを発するし。なんで風邪ひいたときは身体が痛くなるのかな?それは痛みを与えて症状を知らせるため。人生と身体に起きる病気って似てるよね。ただ、下手くそなんだよ。訴えかけるのが。優しくないよね」
しばらく画面を眺めているとまた健一からメッセージが来た。

「大きな痛みを伴う風邪を引いたら、どんな人だってほとんどは病院に行くってことさ」
それは確かにそうかもしれないけど、風邪を引くことと人生とはどんな関係があるのだろうか。そう思っているとその様子を察したようにもう一通メッセージが届いた。

「つまり、痛みが出ると人は行動したくなるってこと。その痛みは必ずしも悪いものではなくて、この痛みを利用しようって話だよ」

その後、すぐにこの職場から脱却することはできなかったが、痛みを感じるたびに直樹はこの教訓を思い出し、歯を食いしばり努力し続けた。すぐに夢が叶うわけではなかったが、おかげで直樹はもう二度と心が折れなくなった。

直樹はこのことを振り返ってこう思う。

夢を掴み始めた今も痛みは受け続けている。だけどその捉え方は今までとは大きく異なっている。思考が変われば、案外痛みというものもいいものだ。そんなには感じたいとは思わないがね。

痛みは体を動かす原動力となる。辛い思いは自分をその場から離れさせるパワーに変わる。嫌だと思う気持ちは自分を変えるのに役に立つのだ。痛みはそのまま放っておくことが出来ない。痛みにはその場に居させることを防ぐ効果があるのだ。その激しさは辛いものがあるが、その辛さを原動力の火種に変えよう。痛みはあなたを動かすシグナルなのだ。

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