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ぬるくなった情熱

星野 翔平がとある大手銀行に入社をした頃、とても興味深いことが起こった。星野はこの銀行の上級職員からどうしてもという依頼があり、この銀行へ入社した。いわゆるツテ入社というやつだ。

星野は特別この銀行に想いを抱いていたわけでもなく、生活に窮していたわけでもない。この上級職員が顔馴染みであったことと、本当に困っている様子であったからである。前の職もそれなりに気に入っていたが、せっかくのご縁ということもあり入社した。

その点もそうだが、主なきっかけとなったのはこの上級職員、墨田が星野に話を持ってきた時の話であろう。墨田は星野に向かって、君が入ってくれたら時期幹部候補に間違いない。君が今勉強している経営のことを実務で活かすのに最適な場所である。

はじめこそ、社のやり方に従ってもらいたいが、自分の色を構わず発揮して、自分のやりたいようにやってもらいたい。とそうアピールしたのだ。だから、職種も全く違う分野だが、少し専門的な知識さえ身につけてくれたら、即活躍できることは間違いないだろうと。

次世代の我が社を担うのは君しかいない。そこまで言われれば、心というものも移ろいやすいというものだ。かくして星野は長年、勤めていたマーケティング業界から銀行員へと軽やかな転職を決めた。

入社初日、星野は紹介された時にどんなことをスピーチしようかと頭を巡らせていた。もしかしたら、社内ではツテ入社という噂がもう広がっているかもしれないと考えたからだ。そうなってくると他者からは冷たい目で見られるのがオチである。

そうならないためには、私は皆様が思っているような人間ではないということを最初のスピーチで言って聞かせねばならない。何事もはじめが肝心なのだから。

しかし、いざ銀行に着いてみるとそれらしい機会はまるで持ち合わせていなかった。そればかりか、聞いた話とまるで違ったのである。蓋を開けてみると星野には何も権限を持たせてもらえないポジション。つまり下っ端社員同様の扱いだったのだ。それも、特に雇う必要もなさそうな役割であった。星野はこのことにひどく落胆をした。

今までこつこつと努力をし、やっとの思いで掴み取った職を捨てて、手に入れたものがこのようなものになってしまったのだから。星野は墨田に食ってかかったが、少しの辛抱だから今は耐えてくれと促された。

星野は納得のいかず、当然辛抱などもできそうにはなかった。必要のない部署に送り込まれることには強い不信感を覚えた。前線で活躍していた星野にとって、このようなポジションは耐え難いのである。

星野はすぐにも転職することを決意し始めたが、墨田からの要望や勝手な都合でその場を離れることが出来なかった。仕方なく働き始めるが、星野にはもうすでに情熱というものがほとんどなかった。それでも、働き始めると星野はすぐにある問題点に気がついた。この支店では貸付業務に関する記載がほとんどなく、あったとしてもすごく陳腐なもののみとなっていたのだ。

これでは、借入を行いたいと思っている顧客に正しくアナウンスすることが出来ない。これでは銀行にとってメインとなる貸付業に大きな支障をきたしてしまう。そう思った星野はすぐさま独自で販促物を作成した。

完成したポスターは自分でも見惚れるほど、素晴らしい出来となっていた。これを貼り出せば、多少効果はあるだろうと思っていた。そこで、いざ貼ろうと思っていると星野は突然、墨田から呼び止められた。

「星野くん、それはちょっと待ってもらえるかな?」
なんでもポスターを店内に貼るのは、まだやめて欲しいというのだ。星野はその理由がまったくわからなかったが、墨田は会議で一度話し合いをした上でないと貼れないと言うのだ。

「では、その会議とやらはいつ行われるのですか?」
「ああ、この会議は一ヶ月後だ。その時に審査してもらうよ」
一ヶ月後?!なぜすぐに審査しないのだろうか。というより審査など必要なのだろうか。

「今すぐやれないのですか?」星野は堪り兼ねてこう問いただしたが、墨田からは規則だからという返答が返ってきた。今まで少数精鋭で働いて、スピード感を大切にしていた星野にとってその発言はまるで予期していなかった。この件で星野は残り少ない熱意をすっかりと無くし意気消沈した。

一方でこれを見た墨田の部下である野村は星野に興味を持ち、ある依頼をかけた。それは銀行内にある既存のポスターを美しいデザインに変更してもらいたいというものだった。内容には触れずにデザインだけをよくして欲しいという内容。とてもじゃないが、役に立ちそうにもない的外れの要望である。星野はまた仕方なくやり始める。

一通りの改善が終わると、今度はまたも野村から銀行周りの草をむしってくれだの誰々をある支店にまで送って欲しいだのどうでも良いことを頼まれ始めた。

星野は心底うんざりとしていた。早くも半年が経とうというのに、状況は依然変わらず。いや、停滞しているという点では後退をしているのだから。

そして、一ヶ月後には審査にかけると言っていた貸付を宣伝したポスターはそのまま忘れ去られ、陽の目を見ることなくその役目を終えようとしていた。だが、星野はもう気にせずにいた。一つのことを待ち、そのことに縛られ続けるよりも出来ることを数多くこなした方が良いと知っていたからだ。そこで、星野は次なる取り組みを行うことにした。

前々から疑問に思っていた顧客の待ち時間を楽しくする改善である。見ていると顧客は長いこと待たされるケースが少なくない。それは丁寧な業務を行う上で必要な時間なのだが、顧客からは理解されず、なぜこんなに待たされるのか?といったクレームは絶えない。

星野はこの点に注目した。時間の改善を行うことが難しいのであれば、どうして待ち時間に楽しめるものを用意してあげないのだろう?と。

そこで星野は待ち時間が楽しくなるような方策として、資産運用についてまとめた新聞を作ることにした。足を運んでいる顧客が一番関心のありそうな話題と興味がありそうな媒体を組み合わせたものを作ろうと画作したのだ。

そのためには資産運用に関する専門的な知識が必要となる。しかし、星野はそのような知識を持ち合わせていないことが課題であった。独自で調べるも専門的なところはわからずに計画はすぐさま頓挫した。

その頃になると社内の様子も少しずつ見えてくる。そこで星野はまた驚愕した。なんとこの銀行の昇級システムは年功序列なのだと言う。 つまり星野がどんなに頑張ろうと上に人がいる限り、そいつが繰り上がるということなのだ。そして、星野の上には四人もいた。つまり、初めから星野にチャンスなどなかったというわけである。

星野の最後の望みはここで絶たれた。もう本当にどうでも良くなった頃、社内である噂を耳にした。それはこの支店が解散の危機であるという情報だ。ここ最近の売り上げが悪く、このままでは近々閉鎖も免れないのだという。しかし、そのような事態を迎えても上級職員たちはろくに関心を寄せず、相変わらず自分の保身ばかりを気にしていた。

星野が危惧する中、状況を打開できるほどの大きなとっかかりと出会った。それはちょうど社内勉強会に参加した時に起きた。

その日星野が早々と帰ろうとすると野村が話しかけてきたのだ。隣の広間でFPが資産管理と投資について社内向けに勉強会を開催するから見てこいと言う。星野はなぜ今さらそんなことをと思ったが、時間をくれてやるつもりで勉強会に参加した。

すると、その内容は内部にいる専門家しか知り得ない情報で、新しい投資方法とその使い方、ポイントどういう点が従来の投資と異なるのか?と言った方法論がいくつも展開されるとても有意義な内容だった。

さらに、FPはこうも言った。
「この運用方法は世間一般的にまだ広まっていない。是非とも、この方法を顧客に伝えて欲しい」

星野はこれを聞いた時、思わず身を乗り出し、とても高揚する想いを感じとった。
これがあれば、自分が思い描いていた新聞が簡単に作れる。

一から情報を調べなくとも専門家が話したことをそのまままとめて新聞にするだけで良いのだ。あとは自分が持っているスキルを使って作りこむだけで良い。それだけで、数多くの人が幸せになれる。

単なるつまらない勉強会だと思っていたが、思わぬ宝を見つけ、星野は大いに喜んだ。

だが、その翌日になると星野の闘志はすっかりと萎み、もうどこかへ行ってしまっていた。自分が張り切ってやるまでもないだろうと考えたのだ。こうして社の貴重な情報はそのまま浪費されて終わった。もう星野に何かをやりきる情熱は微塵も持ち合わせていなかったのである。

その半年後、星野は退職し、新たな職務についた。
その後、支店が解散されたことは言うまでもない。

何かを成し遂げようと思った時、必要になるのは情熱だ。情熱無くして成功することはとても難しい。情熱はあらゆる困難・障害を乗り越えるためには欠かせない。情熱の炎は常に燃えたぎらせておこう。どんなに頑張っても燃えないというのであれば、他の道を探すのも手だ。

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