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いつもそこに【完】突き進む勇気の先に…

「充弘はそれで後悔しないわけっ?!」
突然、部屋の入り口から声がする。

「小百合?!…ぅぐ」
激しい頭痛に顔を歪める。

「ちょっと、なんでここに?!って顔はやめてよねっ。充弘が入院することになったって送ってきたんじゃないっ!!だから仕事を早く終わらせてきたのよっ!」
充弘は大政が帰った後、小百合にメッセージを入れていたことを今思い出した。

「そんなことよりっ!話し聞いちゃったわよっ。簡単に明け渡しちゃって、充弘はいいのっ?大切な場所なんでしょ?」

「明け渡していい訳がない!しかし…」

「そんな最低な奴に明け渡すくらいなら、差し押さえでもなんでもされた方がよっぽどましだわっ!そこのおばさんが調査してくれたんだから、もうひと勝負してみたらいいじゃないっ!」

「そうは言っても…」
「ねえっ!充弘、まさかあんたまだ根拠がとか思ってるんじゃないでしょうねっ?」

「……」
充弘は黙り込んでしまう。
すると、小百合はこう言った。

「いい加減信じなさいっ!あなたとあのお店を!
充弘は何に対しても根拠があるって信じ込んできたじゃないの!
いつもそこにあんたが持ってたものっ!

それとおんなじよ!そうやって信じていればいいのよ!これは上手くいく、成功するって思い込まなきゃ道なんて永遠に拓けないわっ!あなたが信じないで誰が信じるのよっ!!そんなもののためにみすみす店を明け渡すなんて、あんたバカよっ!」

「…根拠がなければ、上手くいく保証などないじゃないか!」
「そんなもん知らないわよっ!そんなことしてたらいつまで経っても何も始まらないのよっ!
恋愛だってそうでしょう!?相手に振られるのが怖いから想いを伝えられない、なんてこと言ってたらいつまでも変わらないのよっ!

上手くいくにしてもいかないにしても、そこから動き出すことが大事なんじゃないっ!勝利を掴み取るためには、探すことよりも行動することよっ!根拠が見つからなければ、思い込みなさいっ!必ず上手くいくって!」

「………」
「あんた勝ちたいの!?本当は明け渡しちゃってもいいって思ってるんじゃないの?!」

「そんなわけない!…やる!ここでやらなきゃ誰がやるんだよ!!」
と、その時充弘は突然思い出した。

「ちょっと待ってくれ!!今何時だ?!」
「さすがっ!あとは信じてやるのみよっ!で、今は十九時半ってところだけど?」

「大変だ!!時間がない!あいつ二十時には書類を持ってくるって言ってた!契約されたらもう取り戻せない!」

「ちょっと!!!もう時間がないじゃないっ!ここの病院からどれくらいかかるの?」
「この時間なら車で三十五分ってところじゃないかしら?」
それまですっかりと沈黙を守っていた、たえさんがいつの間にか蘇り、話に入ってくる。

「じゃあ私のバイクで行けばもっと早く着けるはずよっ!どうする?」
「送ってってくれ!あっ、でもどうやってここを抜け出そう…」
「それなら、あたしに任せなさいって。ちょっくらナースステーション行って喋り通してくるわよ。その隙にあんたたち行きなさい。ただその後怒られることは覚悟しておかないとね」
「ありがとう、たえさん。行ってくる!」

「充くん、お店と大ちゃんを頼んだわよ」
充弘は大政が持ってきてくれていた服にさっと着替え、病院を飛び出した。

「今バイク持ってくるから、そこで待っててっ!」
ブゥォン!という音ともに大きなバイクにまたがる小百合が現れた。

「行くわよっ!道案内してっ!」
充弘は早速、乗り込み『くりっと』へと急いだ。

「もう!なんでよりによってこんな時に道が混んでいるのよっ?!」
「そこ右!そこは裏道になってて通り抜けられるんだ!うっ…」
車で対抗するのが難しそうな狭い道路へ出る。

「ちょっと!今死にそうになってどうすんの!死ぬには早すぎるわよ!ちゃんと捕まっててっ!全速力で行くからっ!」
「わわわ!こんな狭い道を飛ばし過ぎだー!!」

キキッー!!

充弘たちは七時五十九分、時間ギリギリで『くりっと』に到着した。

あたしはバイク停めてから行くから!というと小百合は走り去って行った。
充弘は『くりっと』のドアを開けた。

大政と長岡はまさに今契約しようとしている最中であった。
「やめろ!」
大慌てで、二人を呼び止める。

「おや、お兄さん」
一瞬ビクッとした様子を見せたが、何食わぬ顔で長岡は返事をする。

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「ふざけたこと言うな!もう全部聞いたよ!大政、こいつはここを買収しようとしているんだ!」
すると、長岡は隠そうともせず、本性をさらけ出した。

「ははははは!!ここまできたのは褒めてあげましょう。ですが、しかしどうするんです?今契約した方がまだマシなんですよ?!契約を止めますか?!この金額はどうしようもないでしょう。それとも、あなたが背負うんですか?この一千二百万という負債を!」
その豹変ぶりに大政は驚きを隠せない。充弘が反撃に出る。

「…ああ、その通りだ!店の借金は俺の金で返す」
「兄さん!!…もういいって」
大政は弱々しく言った。

「そんな意地など張って、ろくなことは起きませんよ。それにあなたが負債を追う価値など、この店のどこにあるというのですか?!売り上げも全くない!」

「金はある。この二十年間、一度も手付かずだった。毎月、ずっと貯めてた。おふくろは大事な時に使えと言ってくれた。その金を使う時が今なんだよ!」
充弘は大政に振り返る。

「大政、大丈夫だ!金はある!こんな奴に頼らなくたって、やり直せる!」

「くっ!!」
長岡は苦虫を噛み潰したような表情で充弘を見る。
「こんな店すぐに潰れますよ!!今ならまだ引き返せるっていうのに馬鹿ですね」

「今度は俺もここで毎日働く」
「兄さん、何言ってるの?!仕事あるだろ」

「ふんっ、安定した職業を捨てて、やる意味のない店をやる。ずいぶん美しい兄弟愛だ。だが、いくら理想を掲げたとしても、上手くいかなければ自己満足に過ぎないんだよ!」

「上手く行くかなんてわからない。だが、弟が信じてやってきた店を守るのはあんたじゃない、俺が守る!」
自信に満ちた表情で、鋭い眼光のまま長岡を見つめる。

「…ちっ!せいぜいもがき苦しんで、後悔するといい!」
引きそうにないと思ったのか、荒々しく書類を片付け、長岡はブツブツと文句を言いながら、店を出て行った。

「兄さん、何やってんの!」
「みんなで力を合わせれば、なんとかなるだろう。明日から大忙しだね」

「イタタ!!終わったと思ったら、急に頭が…痛い」
「ほら、終わったんならさっさと病院に戻るわよっ!」

病院に戻ると案の定、充弘は絞るだけ絞られた。
幸い、充弘はあと一日入院するだけで済んだ。退院すると会社には辞表を提出し、有休消化に入る。会社の上司は必死になって止めようとしたが、充弘の決意は固かった。次の日からは本格的に店の手伝いを行う。

店に入るとそこにはめぐるの姿があった。たえさんが事の真相を台風のような速さで伝え、自分が利用されていたことを改めて知った。とても気まずそうに、とても恥ずかしそうに、めぐるは充弘を見つめていた。充弘は笑って「おかえり」と言った。

その週末になると、借入れていたお金を一括で返済し、晴れて店を継続させることができた。
とはいえ、現状では問題が山積みである。長岡の言う通り、客入りを回復させなくては、元も子もない。

充弘たちはたえさんの調査データをもとに新たなペルソナを設定し直し、店のコンセプトをがらりと変更することにした。今度はITマニアが好きそうな作りにする予定だ。同時に新メニューも考案中である。

その中でも、ガジェットラテアートが一押し。他には超濃厚ブラックコーヒーなど。イベントでは、ビジネスアイデアハッカソンなどの企画も検討しているところだ。

それから約一ヶ月ほどが経過したある日のこと。
店は名前を変えて、新装開店を迎える。新しくできた看板を前に充弘と小百合は会話していた。

「へえ、いい名前だねっ!」
「小百合が力を貸してくれたおかげだよ。あとは君がそばにいてくれたら、大満足だ」
「えっ?!」
「あっ、いや…おかしなこと言ってしまった!」
「おかしくなんてないっ!…いいの?」
「もちろんだよ!」

二人は思い切り抱きつき、そしてそっと唇を重ねた。
遠くから充弘を呼ぶ声がする。

「兄さん、新しく店先に看板置く。店内のイベントをライブ中継で配信したい」
大政が充弘に相談を持ちかける。
「……」
充弘は唇に手を押し当て黙っている。
そしてこう言った。

「うん、いいね!上手く行くと思う。早速、やってみよう!」

成功者が集まるお店として注目されるようになるのは、まだもう少しあとのお話。
たえさんが散弾銃のように良い評判を拡散し、長岡が流した悪評を打ち消してからである。

充弘と大政はカフェ『くりっと』に二人の絆を付け加え、新たな門出を祝った。
『グリット』やり抜く力である。

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