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壮大な地獄の中を生きる2

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面談当日、男はどうにかなりそうなほど緊張していた。面談会場が近づくにつれて男の緊張はますます大きなものになっていった。ようやく会場となるオフィスのドアの前にたどり着いた時、男は嗚咽しかけていた。だが、同時に高揚する気持ちも感じていた。ようやく憧れの人に会える。湧き上がる高揚感は最高潮を迎えた。男はゆっくりとドアを開けた。

はじめましてと挨拶をするとやあよく来たねとその男は気さくに握手で応じた。本物の永 月九郎が目の前にいる。それだけで男は満足だったが、せっかくの機会を不意にはしたくなかった。男はたわいのない会話から入った。

「監督の手ものすごく冷たいですね!」
「あぁ、そうなんだよ。手が冷たい人は心が温かいなんて言うがね…」

監督はボソッと何かを話したが、男には聞き取れなかった。

「それはそうと、話が盛り上がり過ぎて写真を撮り忘れたなんてことが起きないように先に撮ろうではないか。おい、そこの君。写真を撮ってくれないか?」

「そうだな。ポーズはどんなものにしようか」

「それなら、僕はあのポーズがいいです。監督の最新作に出て来た主人公とライバルが共に手を取り合う時に一度だけ腕を交わしたあのポーズを!」
「ああ、あのシーンか。よく見逃さなかったな。では、そのポーズで撮るとしよう」

「ありがとうございます!この写真あとでいただいでもよろしいですか?」
「ん?ああ、この様子は次回の月九郎マガジンに掲載予定だから、そこで眺めたまえ」

「さて、短編映画を持ち込んでもらっているそうだな。観ようか」
「はい!ありがとうございます。今ご用意します」

ーーその日、男は何度も自分を恨んだ。あちらの道を選んでいたら楽をすることが出来たのに。どうしてこんな道を選んでしまったのかと。なぜ辛い思いをしてまで険しい道を歩まねばならないのかとーー

映画はこのような形で始まりを見せた。

「だっりい。やっぱもういいや。もうわかったから終わりにしていいよ」
「えっ?いや、まだ始まったばかり…」

「うっせえな!おめえみてえなやつの作品なんて観てる時間がもったいねえんだよ!編集から好感度アップのためにやりましょうなんて言われたから仕方なく来たけどよ。やっぱめんどくせえ!もう記事用の写真も撮り終えたし、おめえ帰れ!このド素人が!」
男は突然のことに何も反応することが出来なかった。月九郎は一人ぶつぶつと文句を言っている。

「全くふざけたイベントだ。なんで俺がこんなクソみてえなイベントをやらなきゃなんねえんだ。俺には才能があるんだよ。こんな才能のねえ奴のために無償で教えてやるイベントなんて意味がねえ。どうせミーハーな野郎が来るだけなんだよ。才能がねえやつはさっさと消えろ」

男がまだ呆然としていると月九郎が顔を見上げ、男の存在を確認した。
先ほどの月九郎監督とはうって変わった形相である。

「さっさと帰れって言っただろ!まだ居やがるのか。よし、この際だからとことん教えてやるよ。出ねえ芽をそのまんまにしておくのも、気の毒だしなあ」
ガタッと席を立つと月九郎はゆっくり男に近寄り、永遠と男のことを罵倒し続けた。それは二時間にも及んだ。

男はブルブルと震え、無言のまま会場を後にしようとした。その時、月九郎が追い打ちをかけるように男に声をかけた。

「一連のこと、言いたきゃ言ってもいいぜ。ただそんなことを君が言ったとしても誰も信用などしないだろうし、自分に才能がないと言っているようなもんだもんな。誰もお前の味方なんてしないよ。とにかく才能がないんだからさっさと諦めな。お前にはこの仕事向いていないよ。せっかく俺様がアドバイスしてやったんだ。受け入れろよ」

「あっ、この記事は明日のマガジンに掲載されるからよろしくな〜」

会場を後にすると男は涙を堪えられず、ボロボロと涙を流した。
努力なんて…はじめからしなければよかった。

それから二日後に男は出社した。
その時、おじさんは男に駆け寄りこう言ったんだ。

「おい!おめえさん昨日は無断欠勤するなんて一体どうしちまったんだい?もしかして監督に言われたことで、有頂天になっちまって家で飛び跳ねてたんじゃねえのかい?」
「おじさん、その逆だよ。僕もう諦めるよ」
「何言ってやがるんだ!おめえさんはそいつに会って何言われたのか知んねえけど、そんなことでへこたれるやつじゃねえだろ!」

「おじさんこそ何言ってるんだよ。おじさんだって、夢は持つななんて言ってたじゃん。夢なんて持たない方が幸せなんだよ。ってそう言っていたじゃないか!あの監督に会ってこう言われたよ。あの人そんなに努力していないんだって。才能がねえやつはやる資格がないんだって」
男は涙ながらにおじさんに一連の流れを説明した。

おじさんは黙ってただ男を見つめていた。
「おじさん見てくれよ。この月九郎マガジン。ほら、ここ。ここに僕が載っているよ。楽しそうだろう。この写真ははじめに撮ったんだ。そのあとはずっと嫌なことを言われ続けていた。でも、この記事を読んでごらんよ。とても良い対談になってる。

あいつはじめから真面目に僕と話すつもりなんてなかったんだ。あいつクソ野郎だよ。あいつを目指してやって来たのに。あいつのことを憧れていたのに。あいつが唯一の希望だったんだ。こんな幸運にめぐり合うことはもう二度都内と思ってたのに。あいつと握手までしちまったよ。僕はもうこの右手をこの場で切り落としたい。許せないよ、くそっ。くそおぉぉぉお!!」

ついに男はおじさんの前で泣き崩れた。

「才能がないやつはやるだけ無駄だから辞めておけって。あいつ言ってたよ。最初は納得できないし、憤慨してた。でもプロの言うことだし、それは本当のことなのかもしれないって思って、だんだん。だんだん悲しくなってきた。今までやって来たことも、自分がバカみたいに努力してきたことも。全てを捨ててやってきていたんだ。でも、でも!!全部無駄だった!」
男が投げやりに叫ぶとおじさんがこう言った。

「おめえさんが!おめえさんが才能を持っているのかは俺にはわからねえ!!だけど、辞めちゃならねえ!ここで辞めちゃならねえんだ!」

「おじさん、ありがとう。励ましてくれているんだね。でも、おじさんの言っていることめちゃくちゃすぎてよくわからないよ。夢を持たなくていいと教えてくれたのはおじさんだろ?それにさ、なんでおじさんが泣いているんだよ」

「俺は、俺は才能がねえからと言って早々に諦めちまった老いぼれだ。俺にもおめえさんみたいに夢を持った時期だってあったんだ。でも、俺は少しやっただけでうまくいかねえってわかって逃げ出しちめえやがった。それからずっと後悔してたよ。

あん時、なんでもっと努力できなかったんだって。才能がないからという言い訳をして、ずっと楽なことして、会社にしがみついて。こん年になってよ。今さら悔しがりやがるんだ。

おめえさんのように努力できる人は羨ましいよ。なあ、だから諦めないでくれよ。おめえさんのように努力し続ける人間を見ていると嬉しくなるんだ。おめえさんは俺の希望なんだ。こんな老いぼれの俺ができることと言えば、おめえさんを輝かせることなんだよ。おめえさんまで諦めちまったら悔しいじゃねえかよお」

「そんな勝手なこと言わないでよ。おじさんには何もわからないじゃない!」

「あぁ、そうだ。俺にはおめえさんの苦労はわからねえ。なんせ俺はすぐに投げ出しちめえやがったからな。そん時ですら、すげえ辛かった。それなのに、逃げ出さねえおめえさんはすげえよ。おめえさんは努力し続ける才能を持っているんだ。これだけは忘れちゃならねえ。

努力は誰にだってできることじゃねえんだよ。あんな才能があるからと言って努力もせずに才能をひけらかすような輩に負けちゃならねえ。おめえさんはおめえさんの方法でやっていけばいいんだ!おめえさんにも才能はあるよ!」

気付けば、おじさんも男もボロボロと泣いていた。
その想いが男の心響いた時、男は思い出した。

そうだ、僕は今までずっと何があっても努力し続けてきたじゃないか。今までだってずっと失敗続きだった。そうさ、僕に才能なんてもともと持ち合わせいなかったんだ。才能がないからあらゆる経験を積み、今に繋がってきた。そんな経験をしてきたことは僕にしかできないことなんだ。こっちに道を歩み始めたことに後悔なんてしていない!

「おじさん、ありがとう。僕やってみるよ」
男はもう二度と諦めないことを誓った。こうして男はまた努力をし始めたとさ。

田所講師はこう締めくくろうとしていた。
「いいか?みんな。この教訓は才能…」
その時生徒の一人が思わず叫んだ。

「先生!ズルイよ!話が落ちてないじゃないですか!本当は結末を知っているんですよね!?そのいけすかないやろうはどうなったんですか?!」

「最近はめっきり姿を消し去ってしまったようだ」

すると、また別の生徒が叫んだ。

「バカヤロウ!そんなことはどうだっていいんだよ!ネットでも単なる一発屋だったって騒がれてたじゃねえか!そんなことより先生!その男は夢を叶えることができたのでしょうか?」

「それはわからない。確かに男はその後、努力を重ね監督としてデビューした。だが、そこそことしかヒットしなかった。五作目を発表したあと、男は監督業を辞めた。

ただ男は幸福を手にすることが出来た。それは監督というプレイヤーとしてではなく、人に教える講師としてな」
「なぜ突然講師になったんです?」
「男はな、分析魔だったんだよ」

「あれ?」

「さて、これから学べる教訓は才能がないからといって諦める必要はないということだ。才能がない分、努力することができる。努力する楽しみがある。君たちの中にはうまく夢が叶わないものもいるだろう。だが、今言ったことを覚えておいてほしい。変に才能を持ってしまったばっかりに努力を忘れてしまう人になってはいけないのだから」

才能がないということは悪いことなのだろうか?私はそうは思わない。才能がないということは努力をすることがいつの間にか当たり前になっているという習慣を作り出してくれていると言ってもいい。これはとても素晴らしいことだ。ひたすら努力しようじゃないか。

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