楽しく読めて好かれる、心を動かす物語

  1. 心の在り方
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絶望からの脱出

稲本麻弥はこの日も朝早くから起きてせかせかと動き回っていた。

麻弥は家族の中で誰よりも一番に起きる。皆が寝静まっている間に子供と夫のお弁当を作り、洗濯機を回し始め、子供たちの洋服を準備する。合間に朝食の準備もなんのその。ささっとこなす。手際の良さは長年、熱心にやり続けた経験の賜物といえる。

この日も変わらず、さささと準備をし、夫・子供たちを送り出した。麻弥の仕事はまだ終わらない。送り出した後は掃除、洗い終わった洗濯干し、食器洗い。やることは盛りだくさんだ。

一息ついたかと思うと今度は夕飯の買い出し、調理、洗濯物のたたみ込みが待ち受けている。それらを全て片付けたところで、ようやく麻弥に至福の時間が訪れる。

そして、もう一つの顔小説家としての麻弥が現れる。

麻弥は七年この道一本でひたすら小説を書き続けてきた。しかし、ちらほらと売れるもののこれ一本でやっていくだけの売上には到底届かない。売れるためにはどうしたらいいのだろうか。策を巡らせ、売る方法を考え創作活動に専念し続けていた。

夫はこんな妻を応援してくれる。君が好きなようにやったらいいといつも背中を押してくれているのだ。

そのおかげでのびのびとやり続けることができている。夫はいつも麻弥の話を熱心に聞いてくれる良きパートナーだ。君の教え方はすごくわかりやすい。素晴らしいと褒めちぎってくれるのが、日々の創作活動の支えである。

小説のことなど、特に詳しいわけでもないのに。まあ、でもそんな夫のおかげで日々、心が折れずにやれているのだけど。ありがたいことだわ。

そんな思いを秘めたまま麻弥は執筆活動に熱を入れ続けた。

しばらくこんな日が続いたある日、麻弥は小説家向けに新しいサイトが開かれることを知り、早速登録を開始した。サイトは瞬く間に成長し、日本で一番有名なサイトへと変貌を遂げた。登録作家数はかなり増えたが、それよりも読者数はそれをはるかに凌ぐ数となっていた。

麻弥は期待に胸を膨らませ、創作活動に精を出し続けていたが、全く売れ行きが伸びてこない。

はじめのうちはそういうものなのかと思っていたのだが、どうも違うようだ。売れている人は売れている。後から新参してきたにもかかわらず、成功を収めているものも何人も見た。

それでも、麻弥はめげることなくやり続けた。もう少しで売れる方法がわかりそうだ。と思っていた時、夫からの励ましの言葉は正直心の支えとなった。

だが、その活動も虚しく結果は出なかった。麻弥は辛抱強く、逆境に強いタイプであったが、あまりの結果の出なさについに心が折れてしまう。

力尽きた。この言葉ほど今の麻弥を表す言葉はないだろう。小説を書き始めてから十五年のことである。

夫は相変わらず、君には才能があるはずなのだ!夢を諦めてはいけない!という熱い声援を送る。しかし、心が折れた今ではどれも戯言にしか聞こえない。

「いいのそんなことは戯言だということはわかっているから。私には才能がないのよ。実はずっと前からうすうすと気が付いてはいたのよ。ただ、それを見ないふりしてた」

「そんなことはない。君の教えはいつも素晴らしいじゃないか!もっと自信を持つんだ!」

「あなたには私の苦しみなんてわからないのよ!わかったような口を聞かないで!私には私の限界がわかるのだから。もういいのよ!今は一人にさせて」

麻弥はそういったっきり、自室へと向かった。まだ諦めてはダメだという夫の声も耳に入らず、麻弥は部屋を閉ざした。

とうとう己の道を閉ざすこととなり、麻弥は先の見えない暗闇に覆われ、絶望感を感じ取っていた。諦めようにも諦めきれず、ただ無性に絶望感を味わう。閉ざされた空間も相まって麻弥はボロボロと泣き崩れた。夢に絶望し、全てが終わってしまったのだ。

「さようなら。私の夢」

もし…。
もしである。もしあの時、麻弥に横の道を歩いてもらえていたのなら。

もし才能をプレイヤーとしてだけでなく、マネージャーとして開花させることができたら。
もし経営者としてプレイヤー支援サイトを構築できたのなら。はたまた、小説に使う考え方を他のことに活用できたのなら。

もし、横の道を何本も用意できていたのなら、一つの道が閉ざされたとしてもそこまで傷つくことなく次の道へと進むことができただろう。

それでは、プレイバックといこう。

だが、その活動も虚しく結果は出なかった。麻弥は辛抱強く、逆境に強いタイプであったが、あまりの結果の出なさについに心が折れてしまう。

力尽きた。この言葉ほど今の麻弥を表す言葉はないだろう。小説を書き始めてから十五年のことである。

「ふぅ。長い間この道に命をかけてやってきたけど、とうとうここら辺が限界のようだわ」

「諦めてはダメだ!君には才能があるのだから」

「ちょっと、ちょっと。限界だとは言ったけど、諦めるとは言っていないわ。私ね、小説家を育成する専門家になろうと思うの。というのもね、あなた前に私は教えるのが上手だと言ってくれたじゃない。それでずっとそのことが頭から離れられなくて、考えてみたの。私はそっちの才能の方があるんじゃないかって。

どうやら私は創作するよりも分析する方が得意だったのよ。面白い話の創作は他の人の方が格段だわ。でも、どこが面白いポイントなのかを探るという点では、私かなりいい線いけてるんじゃないかと思うの。

個別指導として展開してもいいし、サイトを運営するのも悪くないわね。サイトの運営をするのなら内容を小説にして、ポイントを伝えるのも面白そうね。なんか、私ワクワクしてきたわ。早速新たな道に向けて準備し直しよ」

麻弥は晴れ晴れとした澄みきった声で言った。

「こんにちは、私の新たな夢」

一つのことに没頭することはとても良い。あらゆるものに手を出して成功するなど、難しいからだ。

ただ、没頭し集中しつつもほんの少しの余力でいいから、今ある能力で他にどのようなことができるのだろうかと想像のタネを巡らせてみてもらいたい。

横の展開をいくつも考えておけば、いざという時に絶望の淵からあなたを救ってくれる。それに案外、横の展開に出た方が自分に合っていることで成功するということもあるかもしれない。夢を掴む方法は何も一つではない。一つの才能を活かす方法は無数にあるのである。

別の道を考え始めるのはその全てを見極めてからでも遅くはない。

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