1. 心の在り方
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今出来ることがベスト!

こんな偶然などあるのだろうか。いったいどれほどの確率なのだろう。自分でも未だに信じられない。だが、その事実が目の前に現れていることは確かだ。ある昼過ぎのことである。

国友源(くにともげん)は長い間広告代理店で働き、幾度となく負けられないコンペを経験してきたが、今回のコンペには以前見せたことのない、並々ならぬ意気込みを見せていた。

源にはどうしても負けられない思いがあった。コンペでライバル社から出てきた担当が中学生の時に嫌っていた同級生だったからである。

世間は狭いものなどとは言うが、まさかこんなところで鉢合うとは思ってもみなかった。

何十年と連絡も取り合っておらず、お互い同業界にいたということを全く知らなかった。

どちらかと言うとライバル社の同級生、松崎明和(あきかず)はやんちゃなタイプで勉強が出来るタイプとは程遠い人種であった。根っからの悪というわけでもなく、気さくな性格も持ち合わせてか、同級生からはあっきーなどと呼ばれる人気者だ。

やんちゃながらも同級生とは誰とでも分け隔てなく楽しそうに話す良いやつ。というのが、一般的な評判であろう。だが、明和のことを嫌う人も少なからずいて、源もその一人であった。

明和は気さくな反面、人の心を読めないタイプで、土足で平気で人の心にズケズケと入ってくるやつでもあったのだ。自分の領域、タイミングを大切にする源にとってはそれをズケズケと入り込み、乱してくる明和には抵抗を感じていた。

悪いやつではないのだが、あまり仲良くはしたくない。そんな関係だった。

今回のコンペだって、いくら相手方のミスとは言え、あいつの不注意にもかんに障る。たまたまブッキングしてしまったことは仕方ない。だからと言って、エレベーターホール前でそれらしき業者を見かけたら「あぁ、こいつが今回のコンペの相手なのか。」くらいわかるだろう。

たとえそれが長年顔を合わせていなかった同級生だったとしても。いくらなんでも気を緩ませすぎだ。顔を合わせるなり、これからコンペの打ち合わせなんだわ。というバカがどこにいる。

俺はそのライバル会社の人間なんだよ!だから、あいつは嫌いなんだ。なんてずさんでがさつなんだ。

源は社を後にして、すぐ近くのカフェに駆け込み、打ち合わせした内容を元に戦略を立案しようとしていた。しかし、今起きた出来事に意識が持っていかれ、全く集中できずにいた。かれこれ二時間も時間を無駄にしてしまった。

と、そこへ携帯が着信する。明和だ。

「久しぶり!」
耳が取れそうなほど大きな声で明和は第一声をあげた。
「いや、まさか源があの会社の社員だとは知らなかったよ。ちらっとデスクを見回したけど、お前の姿が見えなくてさ。どっかいった?

それはそうと、さっきも話したけどさ、今コンペの打ち合わせをしてきたんだ!今回うちははじめてやらせてもらうんだけど、かなり面白そうな内容だな。実は今からどんな企画を出そうかワクワクしてるんだ。これもなんかの縁だし、贔屓してくれよなっ」

軽い調子で冗談交じりに言う。あぁいやだ。かったるい調子で源は返す。
「それはできない。松崎、俺はな…」
源が話し終える前に明和が被せる。
「堅いなあ。源は昔っから堅いもんな。相変わらずその調子なんだな。俺のことは明和で良いって言ってるだろ?!松崎なんて呼ばれるとかゆくてしょうがない。

それに贔屓してくれなんて冗談だよ。全く堅いんだから。これでも大卒から一貫して八年もやってきたんだ。俺にだってそれなりの実力もあるし、プライドだってある。贔屓なんてされなくても実力で勝ち取るよ」

「だからな!まつ…明和。俺はそこのしゃ…!!」

またも源が話し終える前に明和が割り込んできた。

「悪い!源、エレベー…のっち……でん……またするわ」
プチっ。明和はそう言い残し電話が切れた。

あんのやろー!言うだけ言ってこっちの話をちっとも聞かねえじゃねえか!!電話して社員じゃないことを伝えるか。

いや、こちらから電話をするのもしゃくだな。なんでわざわざ電話してやらねばならんのだ。電波が途切れたといった内容を話そうとしていた気もするし、すぐにまた連絡が来るだろう。

というかあいつ相手先の社内で電話なんてして来るんじゃねえよ!しかも、そのままエレベーター乗ってんじゃねえよ!なんて非常識なやつなんだ!

しかし、五分待てども十分待てども明和からの着信はなかった。
その後、源はむしゃくしゃと戦い一日を潰したことは言うまでもない。

次の日から源はわかりやすいほどに張り切っていた。朝一番で出社し、企画案の練り込みを行う。企画出しは順調に進んでいるかのように思われた。

課題を洗い出し、それに沿った解決策を複数案検討する。普段であれば、特にこのやり方に気をもむ必要はない。この中から最善の案を提案するだけだ。ただ、今回ばかりはもっと良い企画はないかと企画探しに納得のいかない様子を見せていた。

今回は気合が入っているなと周りから言われる。だが、その気合とは裏腹に企画案にめぼしさが出ないまま、時だけが過ぎていった。負けたくない、突き詰めたい。しかし、そろそろ案をまとめないと期限に間に合わない。焦る源の元に一通のメールが届いた。

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「本番楽しみにしててなっ」

明和だ。こいつはメールまでも空気を読めないのか。と怒りがこみ上げてきたが、その次の一文を見て我に返った。

「めちゃくちゃ面白い企画思いついたんだわ」

源はすぐにメールを閉じた。変にドキドキとする。ドクドクと言ったほうが正しいのかもしれない。これまで味わってきた中で一番嫌な感じだ。焦りを感じていた時だったからそれも重なっていたのかもしれない。

そこへきて、新たなメールを知らせる音が鳴った。
今度はなんだよ!と思っていると普段よくしてくれている担当者からだった。

今回明和の会社は新規代理店であり、公平を期すために別の担当者がコンペを担当するといった内容のメールであった。

その瞬間、源の胸は一段と強い鼓動を鳴り響かせていた。ドキドキと動揺が止まらない。血の気が引いてくるのもわかる。別に源も担当者に贔屓目に見てもらいたいだなんて思ってもいない。

ただ、直前の変更ということ、なんとなく知った顔がいなくなるということに大きく反応してしまった。

結局、当初立案した内容からさほど変わることのないまま、コンペの日を迎えることとなった。

終わってみれば、源の勝利で幕を閉じた。
しかし、その表情には不満が滲み出ていた。なぜか。それは、立案当初に企画した内容と納期ギリギリになって企画した内容とに大差がなかったからだ。

これだけ必死になって練り上げたのに当初からあまり進展がないなんて。やることはやった。出せるものは出し切れた。その達成感はあるのに、嬉しさが込み上げてこない。もどかしい。もっと進展が欲しい。勝つには勝った。だけど、張り切った分だけすごい企画に仕上げたかった。

コンペから明けて少し日が経っていたが、その思いがのしかかり重苦しい気分のままであった。
そこへ携帯が鳴り響く。またしても明和だった。
源は数コールそのまま画面を見つめゆっくりと電話に出た。

「明和、あのな聞いてくれ」

「あぁ、そのことなら大丈夫。今回のコンペ全力を出し切ったけど、相手にはかなわなかったわ。悔しいけど、自分の実力以上のことは逆立ちしても出せない。こればかりは仕方ないよな。

社長には大目玉くらうだろうけど、やることはやったから悔いることはない。だから、俺なら大丈夫!ちっとも傷ついてなんていない。心配ご無用!大丈夫」

「いや、そうじゃないんだ。ちゃんと聞いてくれ。明和は俺があそこの社員だと思っているけど、俺はあそこの社員でもなくて、今回明和とコンペを競い合っていたライバル社の人間なんだよ」

「えっ…」
流石の明和も動揺したのか、沈黙が数秒間続いた。

「今回の相手、源だったの…?」

「あぁ…今まで黙ってて悪い。言い出せるタイミングがなくてさ」

「信じられない…」
明和の明らかなトーンの違いがより一層源に重苦しさを与えていた。

「こんなことってあるのかよ!」
すまない。そう言おうと思って「す…」と言ったところで明和が続けた。

「嬉しすぎるじゃん!!!」

「今回どんなやつに負けたんだろう。きっと俺のことを負かすくらいだから、すごいやつだったんだろうな。って思っていたんだ。

だから、源と聞いて嬉しくなったよ!そうかそうか、源だったのか!そりゃあさ、俺だって言い訳の一つや二つ言いたいもんさ!たたき台の案では面白い企画を思いついたけど、今ひとつ詰めきれない部分もあったしさ!

でも、さっきも言ったけど、出来ないものはいくらひねり出そうとしても出来ないんだよな。まあだからこれが今の俺の実力ってやつで、源の方が実力があったということだ!

いや、それにしても嬉しい!こんなに身近に連絡も取れて張り合える仲間がいるなんて!これから連絡ちょこちょこするわ!

だけど、この業界にいる以上、また鉢合う時があるかもな!次は負けないからな。源と競い合えて面白かったよ。ありがとう!

そういえば、偶然こんなところで源に会えたもんだから、嬉しくて進捗メールしちゃったけど、あれ今思えばかなり迷惑なメールだったなっ。あっはっははは!!」

笑い事じゃねえと思ったが、こっちも黙っていたし、そのくらいは許してやるか。
重苦しい気分も明和のおかげで晴れたし、なにより励まされちゃったからな。

「明和って良いやつだな」

この話の教訓は今出来ることが今のあなたにとっての最大レベルであるということだ。こうやりたい、ああやりたいと理想を掲げその通りに実行したいと思うものの、なかなかそれに近い案ややり方が思い浮かばず、思うようにいかないで、全く進まないこと落ち込むことがある。

そんな時は悩まず進もう。どうあがいても今できること、今のレベルを超えることはできないのだと心に命じ、どんどん先に進めていくのだ。

努力を重ねていけば、徐々に力はついてくる。

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