1. コミュニケーション・関係構築
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今が選ぶべき一番のタイミング1

今年保育園に入ったばかりの子供は無邪気に遊んでいる。かと思えば、急に駄々を捏ね始めてひっくり返って嫌だ嫌だと泣き叫んでいる。この朝の慌ただしい時間に勘弁してほしい。まだ、朝ごはんだって作らなきゃならないのに、掃除だってしたい。今日は天気がいいから布団も干さなくては。

「今日は保育園よ〜。保育園行く人!」
「はい!ぼく、ほいくえんいきましゅっ!」
「保育園は楽しい?」
「うん、とってもたのしい!ぼく、ほいくえんだーいすち」
「よかったわ。お母さんもそんな君がだーいすき!」

なんて言っていたのは遠い昔のように感じるわ。
あっ、いけない。洗濯物も干すんだったわ。

「ちょっと!いい加減にしなさい!今日は保育園だって言ってるでしょ!」

「いやだいやだいやだーーー!」

「もうお母さんだって忙しいのよ!!おとうさーん、この子の世話お願いしていいー?」

「ごめん、俺も準備で忙しい!もう遅刻しそうなんだ!」

はぁ、何食わぬ日常。暴れる息子を無理やり着替えさせ、朝食を摂る。まだ朝だというのにどっと疲れるなんて日常茶飯事。掃除や洗濯をしている間はまた一人でおとなしく遊んでいるけど、保育園に連れて行こうとするとふぅまた始まった。いやいや期。どうにかならないからしら。

私は「行くって行ってるでしょ!」と声を張り上げ、無理やり自転車に乗せた。ただね、本当の問題はこれからなんだけどね。

私はこの春から仕事に復帰をした。職場は栗野クリニック(通称くりくり)という小さな診療所。復帰後はやってみたかった仕事をやろうということで、この職種を選んだ。医療事務、憧れの医療事務。私の人生はとても豊かなものになるはずだった。久しぶりに仕事に就く私はとても…馬鹿になっていた。

勤務初日。ガチガチに緊張していた私は異常なほどテンパり、言われたことに対して全て過剰なほどに神経を研ぎ澄ませていた。今思えば、そう過剰だったのだ。私は言われたこと全てを一言一句逃さず覚えなくては。なんて強く思い込み過ぎていた。

そして思い込みすぎるが故に、とんでもない失態を犯した。どういうわけか単純な計算が出来なくなってしまったのだ。焦り、焦り焦れば焦るほど、頭の中はパニックを起こし、計算方法がわからなくなる。

呆れ果てた先輩は私から取り上げこう言った。
「木戸さん、こんなのも出来ないの?」

ふっ。と短いため息をつき、それはもう苛立ちの色を隠せない表情を浮かべていた。
その日は何をやってもダメで先輩から指導されたことがうまく理解できず、何度も怒られ続けた。

「私ダメなのかもしれない。今日ね、計算も出来なかったの。とても簡単な計算」

家に帰ると私は夫に事情を話した。夫は優しく話してくれた。

「そんなもん久しぶりに仕事をしたから緊張しちゃっただけだろ。緊張してたら出来ることも出来なくなることもあるよ」
夫はこう優しく声をかけてくれたけど、本当にそうなのかしら。私はただ単にとっても馬鹿になってしまっただけなような気がする。

「おかあさん〜だっこ」
「今お母さんは大切な話ししてるから出来ない!あっちで遊んでいなさい」
「だっこ!だっこ!だっこーー!!」
私は愚図る息子を放っておいたが、夫はひょいと息子を抱き上げると別の部屋へと行ってしまった。

次の日、仕事に就くと昨日よりかは少し緊張がほぐれているのがわかる。昨日出来なかった計算も…この日は出来た!私はやっぱり緊張していただけなんだわ。そう思ったのもつかの間、この日はまた別のことで怒られ、「前にも言ったじゃん!」と怒鳴られた。

はぁ、家に帰りメモを読み返すと、確かに記載がある。でも、仕事量が多過ぎて、覚えることに限界がある。ただ、先輩がそう言ったってことは私に原因があるのだわ。きっと他の人はもうみんなすぐに出来るのよ。はぁ、私はやっぱり馬鹿なのか。この日も私は夫に相談をした。

「一度言われたことが出来なかったの」

「いやいや、一度で出来たら苦労しないよ。仕事し始めって覚えることたくさんあるし、それを一度に全て詰め込むっていうのには無理がある」

「そうなのかしら」

「その人の教え方が下手なんだよ。人の育成なんて今までしてきたことがないんじゃない?」

「でも、すごい剣幕で怒ってくるのよ?きっと私の出来が悪いからなんだわ」

私は自分の出来の悪さに落ち込んでいた。前の職場ではこんなに出来ない人じゃなかった気がするのだけど、ブランクというのは大きいのかしら。そう思っているとつまらなく思った息子が近づいて来た。

「ねえーあそぼーよー!」
「お母さんたち今大事な話ししてるでしょ!!」
「あそびたいー!!うわーん!!」

「まっ、君のせいじゃないから気楽にやりなよ」
じゃあお父さんと遊ぼうと夫は子供と遊び始めた。なぜ私はこんなに出来ないのだろう。馬鹿ってすごく嫌だ。

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その次の日もまた次の日も私は本当にいろんなことを怒られた。自分では頑張って努力して覚えようとしているつもりなのだが、覚えが悪い。それに覚えなくてはならないことが多すぎる。いや、それはきっと言い訳ね。よく先輩も「こんな簡単なこともできないの?!」って言うもの。

「こんなの少し覚えれば簡単なことじゃない!いい加減、さっさと次の段に行きたいんだけど!」

私に与えられた研修期間は二ヶ月。と言っても週に三回しか入っていないから、正味一ヶ月。早くも一週間が経過したというのに、また何度も初日に教わったこと、二日目に教わったことが抜け落ちて怒られた。

予定ではこんな初歩的なところはさっさとクリアして、次に移りたいということだ。それを私のせいで遅れさせてしまっている。早く覚えようと努力しているけど…この出来の悪い頭のせいで。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさす。はぁ、帰って勉強しなくちゃ。

「ねえ!もういい加減お昼寝してちょうだい!!私だってこの時間を使って勉強したいのだから!」

もう!この日は息子が興奮してなかなか寝付かない。明日も仕事があるのに!今日は頼むから寝てちょうだい。今勉強したいのよ。焦って寝かしつけようとするほど、息子は反発して愚図り始める。はぁ。ようやく寝たと思ったら、もう夕飯を準備する時間。

結局この日は何も勉強することが出来なかった。きっとまた明日は怒られるんだわ。まだ明日は来ていないというのに早くもしょんぼりとする。帰宅した夫にその思いを告げた。

「そんなに時間が取れないのなら、もっと家事の手を抜いたらどうだ?例えば、洗濯は三日に一度にするとか掃除は一週間に一度にするとか夕飯は簡単なものにするとかしたらどうなんだ?」

「それは私が嫌なの。そういうことは毎日きちんとやらなきゃ気が済まないのよ」

「じゃあ、勉強は諦めるしかないじゃないか」

「そんなこと言ってられないのよ!また怒られるんだから!!」

「そうは言ってもな〜。何かを得たいのなら、何かを捨てないと」

「どっちも捨てられないから悩んでいるんでしょ!!」

「だったら、今のままだ」
「おかあさーん、おかしたべたいー」

最近息子は日を増すごとにわがままになって来ている。朝も相変わらず愚図るし、お菓子はあげないと散々言っているのに、言うことを聞かない。

「だから!お菓子はあげないって言っているでしょ!!」
「おがじー!たべだいーー!えーん」
「たまには言うことを聞きなさい!!泣きたいのはこっちよ!」

もう少しでご飯になるから、お父さんと遊んでよ?と夫は息子を抱きかかえ遊びはじめた。

次の日は案の定、怒られた。しかし、少しずつ覚えてきて怒られる頻度は少なくなったように思える。それから二週間はあまり怒られなくなった。研修期間中の遅れは取り戻せていないようだったが、私は平穏を取り戻しつつあった。

「仕事を覚えてきたら、案外難しくなかったわ」

「仕事なんてそんなに難しいことはないよ。特にパートなら尚更ね。君は心配しすぎてたんだよ」

「そうだったみたい!少し自信を取り戻したわ」
さて、今日も張り切って勉強しようと思ったら子供が甘えてきた。

「ねえ、おかーさーん、あそぼー!」
「遊んであげたいけどね。今お母さん大切な時なの。ちょっと勉強したいから一人で遊んでいなさい」

「最近、そればっかりだな」
夫はそう一言だけ告げるとあっちで遊ぼうと息子を連れて行った。
「なによ、私だって苦しんでいるんだから」

その翌週も努力の甲斐あって、怒られる回数は激減した。教育担当の先輩はその様子を見て、ようやく次の段に移れるわと言った。何度も説明するのめんどくさいから一度で覚えてね。というプレッシャー付きで。もう勤めてから一ヶ月と少しが経過した。次こそはそろそろ一度で覚えなくては。

しかし、次に行った患者からの電話対応。これがとても難しかった。「今日はやっていますか?」という内容だけであれば簡潔で済むが、「診断書を書いてもらいたい」とか「保険請求の件で」という保険会社からの電話となるとどう対応してよいかわからなくなってしまう。

それに電話対応中にも診察は進み、カルテを出すだの会計をするだの次の患者を診察室に呼ぶだのやらなくてはならないことが一気にかさむ。先輩に確認すると、そう。「さっき教えたでしょ!こんなのもわからないの?!」だ。

「こんなことも出来なければ、次の保険請求のことなんてとても出来ないんだけど」
落ち込んでいた私はまた習っていたことをヘマした。

「ちょっと!またやってる!まだこれくらい覚えられないの!?」
はぁ。やってしまった。私はなぜこんな簡単なところをミスしてしまうの?やっぱり馬鹿なのかしら。

今が選ぶべき一番のタイミング2へ続く。

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