楽しく読めて好かれる、心を動かす物語

  1. 心の在り方
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悩みに押しつぶされそうな日

守道 聡美(もりみち さとみ)はもう何度泣いたかわからなかった。街は明るい桜の季節なのに、聡美の心は真っ暗闇もいいところで、常にどんよりとした気持ちを抱えていた。全てあいつのせいだ。とは言わないが、少なからずあいつのせいでもあると思っていた。

あいつの名は本城 寛樹(ほんじょう ひろき)といい、聡美の同僚である。二人は普段はとても仲が良い。

仲が良いからこそ衝突することもあり、まさに今聡美と寛樹は衝突し合っていた。聞いてみるとこういうことである。

「あなたにはわからないんだわ!別にあなたに説教なんてされたくないのよ!私はただ話を聞いてもらいたかっただけ!」

「悪いが、守道。君の話には共感できない。それではいつまで経ってもこのままだからだ」

「もういいわ!あなたに相談したこと自体間違っていたんだわ!もう二度とあなたなんかに相談しない!あなたはいつも正論ばっかりね!」

「仕方ないだろう!こうするしか方法はないのだから!守道も良い加減気づきたまえ!」

「もううんざりよ!とにかくこの話は終いにしましょう」

「おい!勝手に終わらすなよ!というか何また泣いてるんだよ。勘弁してくれよ」

「うるさいわね!泣いてなんかないわよ!もういいわ!もうどっか行ってよ」
ひどく泣く聡美をそのままにし、仕方なく寛樹はその場を立ち去った。
聡美は涙で化粧がボロボロになるまで、泣きじゃくり続けた。

聡美は寛樹とのやりとりにもう何度泣いたかわからない。
いつもこんな具合なのだ。

聡美はすぐに物事に悩みを抱える。悩みなんてこの世からなくなればいいのに。聡美はよくこう思っていたが、その思いに反するように悩みは聡美につきまとう。

彼女の唯一の救いといえばそんなことを話す友人がいるということだ。聡美にとっての不安からの対処法。ストレスの発散方法。それがもう一人の同僚、統乃 佳子(とうの よしこ)との会話だ。

佳子は人よりも共感性が高いほうで、相手の気持ちをすぐに察知する才能を持つ。そんなわけで聡美は事あるごとに佳子に話を聞いてもらって、「わかる、わかる」と同調してもらっているのだ。もちろん今回のことも報告済みなわけで寛樹は陰口のまとである。

「そんでさ〜、寛樹には腹が立っちゃって!」

「うんうん、わかるよ。話を聞いてもらえればそれで良いんだものね」

「さすが、佳子!話がわかる!どうしてあいつはいつも助けを求めているのに論理的なことばかり言ってくるのかしら。もっともらしい正論を言ってくるのよ。私はそんなことを求めているわけではないのに、うざったくて相談するのも嫌になってきたの。きっとあいつは人の心が通っていないんだわ」

「そうねえ。わかるわ、聡美ちゃんは何も悪くないよ。だから気にすることはない!」

「ありがとう、佳子!元気出てきたわ!また落ち込んだ時は話聞いてちょうだいね!じゃ、仕事に戻るわ」

「ちょっと待って、聡美ちゃん!そのことで話したいことがあるんだけど…」

「って、はぁ。もう行っちゃった。そそっかしいのは相変わらずだなぁ。今話したかったけど…しょうがないか」

しばらくの間、聡美は平穏を楽しんでいた。と、そこへまた新たな問題が浮かび上がってきた。

大規模なリストラが他社で実施されたというニュースである。聡美は仕事の合間にこのニュースを目にした。と、同時に非常に大きな不安に襲われた。

詳しく読んで見ると大規模リストラは記事に載っている社だけではなく、軒並み続いているというのだ。それもリストラなど必要なさそうな有名企業の名ばかり連なって載っている。聡美が勤めている社は中堅の会社なので、ことさら不安に陥った。

私は一体どうなるのだろうという不安が聡美を襲う。考えれば考えるほど、不安は大きくなり、恐怖が増すばかり。考えないようにしようと思うと、余計に考えて怖くなった。

聡美は一人でいると不安で押し殺されそうになり、たまらず佳子に連絡を入れた。しかし、電話は留守電になり、チャットアプリのメッセージも既読にならない。何時間経とうとも状況は一向に変わらなかった。その間、聡美は不安に押しつぶされ、気を保つことが難しくなっていた。恐ろしさに手が震え始める。

誰でもいいからこのことを話したい、佳子お願い早く連絡をして。怖い。怖いよ。

そんな聡美の異変を察知した寛樹が声を掛けてきた。

「おい!守道、大丈夫か!さっきからお前様子がおかしいぞ!」

「いい。あなたに言っても良いことないから」

「とにかく言ってみろ!言わなきゃわかんないだろ!」

寛樹の強い提案に聡美は今抱えている悩みを打ち明けた。

「……なんだ。そんなことか」

「そんなことって何よ!私にとっては大切なことなのよ!」

「もっと重大なことなのかと思ったよ。そんなのはうちには関係のないことだし、第一なんとかなるだろう」

「やっぱりあなたに話したのは間違いだったんだわ!私がどれだけ不安なのかあなたにはわからないでしょう!」

「不安になる必要なんてないだろ」

「なによ!だからあなたになんて話したくなかったのよ!」

「だから!そういうことじゃねぇって!」

聡美はまたも寛樹に泣かされ、たまらずその場から逃げ出した。

と、そこへ佳子から着信が入る。

「もう、佳子なんで電話に出てくれないのよ〜!大変だったんだから今」

「ごめん、上司と食事に行っていたの。だから連絡取れなかった」

「珍しいじゃない?それよりさ!」
と、聡美は今起きた出来事を話した。わかると慰める佳子の声に覇気がない。

「どうしたの?元気がないじゃない?何かあったのね?」

「聡美ちゃん、あのね、怒らないで聞いてね。実はね、私今月いっぱいで辞めるの。今上司と食事行ってたのもその内容」

「えっ?!聞いてないよ!もしかしてリストラ…なの?」

「ごめん、この間話そうと思ったけど、聡美ちゃん走って行っちゃったから…。それでね、私リストラではなくて自主退職なの。昔から夢だったお店を開くんだ」

「そうなんだ。佳子がリストラされるわけないわよね。お店をやるなんてすごいな〜。でも、会社では会えなくても友達のままだよね?」

「うん、それはもちろん。ずっと仲の良い友達よ。でもね…」

「でも?」

「開店準備に忙しくなるから今まで通り連絡を取り合うのは難しくなると思うの。しばらくの間は話を聞いてあげるのも難しいかな」

「そっか…そりゃそうだよね…」
「…でも私なら大丈夫!私だっていつまでも佳子に頼っているわけにはいかないわ!これからは一人でなんとかするわ!」

「聡美ちゃん、ありがとう。私、がんばるから」

ひと月が経ち佳子が退職したころ、また問題が起きた。部長から聡美の成績が低迷している、このままでは…。と忠告を受けてしまったのだ。

忠告を受けて聡美は慌てふためいた。もしかしたら、私はクビになるのかもしれない。私はリストラの対象群なのだ。今更リストラされたらどう生きていけば良いのだろう。他に行くツテもない。特出したスキルもない。これじゃ再就職も難しい。私、どうやって生きていくの?

いざ対応しようとするもやはり怖い。頑張ろうと思っても、不安は大きくなる。一瞬、佳子のことを思い浮かべて電話を掛けようと思ったが、踏みとどまった。もう佳子に頼ることはしない。自分の力で解決させると誓ったばかりなのだ。

しかし、そう簡単に行くわけもなく、不安は常に聡美を襲い続ける。唯一頼れる存在と言えば寛樹だけだ。だが、結果があまりに目に見えすぎているため頼りたくない。今まで何度頼って裏切られたことか。今回もそうなるに決まっている。聡美は頼っても意味のないことは重々承知してきた。

それでも…

不安がピークに達した時、今の状況から解放されたいという聡美の思いが嫌な気持ちに打ち勝った。どうしても言わなくては自分が苦しい。もしかしたら次こそはちゃんと聞いてくれるかもしれないという期待。

聡美はたまらず寛樹に打ち明けた。

だが、打ち明けただけ無駄だった。やはり寛樹から返ってくる言葉はいつもと同じだ。あぁ、また涙が溢れてくる。なんでこいつなんかに言ってしまったんだろう。もう信用しないと何度も誓ったのに。私が馬鹿だった。佳子、私はやっぱり無理かもしれない。

「おい!守道、話聞いてんのか!」

「もういい」

「もういいじゃない!いいから今日は話をちゃんと聞け!俺がいつも言いたいのは守道が思っているようなことじゃない!」

「いや、どうせ私が思っていることよ!あなたにはわからないのよ!」

「そうじゃねえって!まずそういうところだ!とにかく、最後までしっかり話を聞いてから判断してくれ」

「問題は思い込めばこむほど大きくなるんだよ!いつも俺がそんなことを気にしなくて良いというのはこういうことだ!」

「えっ?」

「守道は過去に他社のリストラ話を聞いて青くなっていたよな。あんなものも他社の話であって、うちには全く関係ない。ああいうのは人件費にコストをかけすぎているから起きているんだ。うちは人員不足で忙しい。リストラの前に他にやることがたくさんあるだろう。

それにツテがなければ、今からでも作れば良いだけの話だし、特出したスキルがなければそれも今から磨いていけば良いだけの話だろう。どうしようどうしようと悩んで勝手に問題を膨らませるから、怖くなるんだ」

「じゃあどうすればいいの?」

「悩みが出たら、大きくするのではなくすぐに解決策を探れば良い。解決して行って問題をどんどん小さくするんだ。なぜなぜ?と問題を掘り下げていくとさっきみたいに実は問題は大したことがなかったと気づくこともある。大きくなればなるほど、怖さも大きくなるんだよ」

「なんで、なんで今まで教えてくれなかったのよー!」

「それは守道がいつも話を聞く前にどっか行っちゃうからだろ。話を黙って最後まで聞くってのも大切な教訓だな」

「うっ…」

「それにな、さっき部長に会って言われたけど、守道また勘違いしてるみたいだぞ?」

「嘘でしょ?!」

「部長な、守道くんの成績が上がらないようではこちらの仕事量が増えて困る。だからこれからも期待しているぞという笑い話にしたかったんだそうだ。だけど、話すなり守道の顔が真っ青になってどっか行くもんだから困ったんだとよ。全くいつも話をちゃんと聞け」

「あちゃー」

「まあそんなところも可愛いけどな」

「えっ?何?今なんて言ったの?」

「なんでもねえよ」

「えっ?ちょっと今のは本当に聞こえなかったんだってば〜」

「それはまた今度!」

「えっ?何よ〜ちゃんと聞くから〜!」

この物語から学べることはいくつかある。

1.問題は悩んでいるから大きく見え、大きな不安に襲われる
問題を細分化してひとつひとつにしていこう。問題は小さくすることで実は案外大したことがなかったと思えるようになる。

2.問題の所在はどこ?わからないから嫌なのだ
掘り下げていくと大した問題ではなかったことに気がつく。なぜ?どうして?どう対処する?と掘り下げてみよう。

3.悩んでいる間は何も進展していない。考えに変えよう
問題に悩んでいる間、思考はその場をぐるぐると回り続ける。思考を巡らせるためには、『悩み』を『考え』に変換させる必要がある。考えとは「なぜ?」「どうして?」「どうやったら」と解決策を考えることだ。

4.あれこれ悩むのなら人に話すのも良い
自分一人で悩んでいるとドツボに陥りやすい。人に話すことで思考が整理されること、解決策をもらえることなどがある。話すだけでもスッキリすることもある。

オマケ.人の話を聞こう
判断するときは冷静になり、客観的に相手の意見を最後まで聞こう。早とちりしては得られるものも得られないのだ。

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