1. 心の在り方
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年相応だと気にすることは1ミリもない1

夢に敗れた達也のことを支えてくれるのはかつての起業仲間、中村 真奈美だ。

達也が目指していた道を閉ざしたことを公に発表するとその日の夕方には連絡が入った。真奈美とは同じ志を持った仲間として頻繁に連絡を取り合っている。

いつもは励ます側の達也がこの時ばかりは励まされっぱなしだ。

達也はこの日、長い間続けてきた店をたたんだ。創業当初から売り上げは常に自転車操業で、いつでも達也は悪戦苦闘の日々を続けていた。小さい店ながらも、努力はした方で、一風変わった珈琲店として雑誌に取り上げられた経験もある。

十二年、達也は努力し続けたがライバル店の出現により、売り上げはますます悪化の一途をたどり、ついにこの度廃業を強いられた。真奈美はその面白珈琲店として話題を取り上げた時の記者で、今では独立してフリーランスのライターとして活躍している。

真奈美が取材に来た時はまだ新米のライターだった。達也の考え方を気に入り、兄さんと呼び、よくプライベートでも店を訪ねるようになった。真奈美は決まって、成功のノウハウを教えてくださいと尋ねてくる。

こんな小さな店だし、売り上げもままならないから教えることはないと達也は散々言ったが、そんなことはないから教えて欲しいと言う。

しばらくそんなやりとりを繰り返していると真奈美を可愛い妹のように思うようになり、達也は自らの経験談を披露した。それから程なくした頃だ。真奈美が社内で表彰され始めたのは。

真奈美は受賞した日にもこの店を訪れ、達也にその報告をした。曰く、達也のアドバイスが効いたのだという。そんなことはない。これは全て君の実力の賜物だよと達也は伝えたが、アドバイスのおかげで何度も助けられたのだと言って聞かない。すごく優しい子だ。その頃からの付き合いで今では六年になる。

この日も真奈美は会うなり、心配した様子で声を掛けてきた。

「兄さん、大丈夫?私落ち込んでいないか心配で」真奈美は弱々しく聞く。
「いつ潰れてもおかしくなったんだ。前からこうなる覚悟は出来ていたよ」

本心を言えば、この時少し落ち込んでいたが、可愛い妹の前となれば偽わざるを得ない。
すると真奈美はぱあーっと顔を明るくさせ、こう言った。

「で、次はどんなことやるの?」
この子には落ち込むとか休息を取ると言った言葉がないのだろう。優しい一面はあるが、前向きすぎるところもある。達也が少し考え込んでいると真奈美は待ちきれずにこう言った。

「ねえ、いつ何をやる?」
とてもキラキラした目を見つめていると達也は根負けしそうになった。

「あ。ああ、今まだ模索中だ。また決まったら、声掛けるから」
本当はこの時点でやってみたいと思うことが達也にはあったのだが、まだ話さずにいた。今話せば、すぐにやれと言われかねない。

「まっ、今日は様子を見に来ただけだからね!とにかく元気そうで良かった。じゃあ、また今度ご飯でも食べながら、話をしよう」
「わかった。煮詰まったらまた連絡する」
「別に煮詰まる前でも構わないよ〜。今度は困った時は私に頼って!あ、あとそうそう。優も心配していたから連絡してあげてね〜!今度ご飯みんなで行こう!」

それだけ言い残すと、颯爽と駅の方へ駆け出していった。フリーランスとしては一年目と言っていたが、もうすでに人気者の仲間入りだ。こんなことを考えてはいけないが、少し羨ましく思う時がある。

その日の夜になると達也は佐々木 優ととあるファミレスにいた。優も店の常連客でよくカウンターでコーヒーを飲み、会話を楽しんでいた。優は真奈美とは対照的でおっとりとした控えめな性格の持ち主。
仕事はどこかの中小企業で事務員をしているらしい。独立や起業などはひっそりとしている自分には程遠いと考えているようで、堅実的だ。

「達也さん、あのその大丈夫です?」様子を伺うように優は話す。
「あぁ、大丈夫だよ。内心少し落ち込んでいるけどね」

しっかりと話を聞いてくれる優にはどこか話しやすさを感じて、つい本当のことを話したくなってしまう。達也は続けた。

「実は、こんなことを優に聞くのもおかしな話だとは思うのだが」

そういうと優は「もう今は店主とお客ではないですから」とひかえめに告げた。

「それならよかった。実は今次に何をやろうかということを考えていて、僕が培ってきた経験をもとにアドバイザーの仕事をしようかと考えているんだ。多少なりともノウハウはあるからね」

「そうですか…。いいと思います」

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「ただ、この話には問題点があって。僕のように成功していないやつの話なんてされたところで聞きたいと思う人はいるのかな?ってところなんだ。成功もしていない僕がそんなことをやる資格なんてないんじゃないかなって思うんだよ」

「あっ…」っと思わず優の口から言葉が漏れた。

「そうか、やはり優もそう思うのか。そうだよな〜。成功したやつの話を普通聞きたがるよな」

「そ、そうですね…。私だったら、成功している人から聞きたいと思います。あっ、でも…ごめんなさい」

「あぁ、いいんだ。別に。現実を知るのも大切なことだからね。僕なんかがやろうと思うなんて調子が良すぎるな」

そうは言いつつもがっくりとうなだれる達也に優はなんと声をかけて良いかわからなかった。
と、そこへ無邪気な声が飛び込んできた。

「何言ってんの!やればいいじゃない!」
声をする方へ顔を向けるとそこには真奈美がいた。
達也をぐいぐいと押し込み、真奈美は着席した。

「なんで真奈美がいるんだよ?!また今度って言ってたじゃないか!」
「何よ、私がいると何か都合でも悪いの?優から今日の夜空いてるかって連絡が来たから来ただけよ」
「都合が悪いって今の話だよ!どこから聞いていたんだ?」

「ええ、そりゃあはじめから全部!だって店内に入ってきたらすぐに兄さんと優の声が聞こえてきたもんだから。この入り口の裏を席に選んだことを悔やむのね。早速この店のオーナーにアドバイスでもしてみたら?さあ観念しなさい!」
「はぁぁ。仕方ない。それで?どういった根拠があってやりなさいと言うんだ?まさか励ますために適当に言ったわけではあるまいな?」

「ええ、それはもちろん…」
真奈美が話し始めるとピリリリという音が鳴り響いた。達也の携帯だ。

「げっ!不動産会社からだ。ごめん、ちょっと席外させてもらう」
今度は達也が真奈美をぐいぐいと押し出しその場を退出する。

「もう!これからが大切な話なのに!それよりさ、最近優の調子はどう?」
「ど、どうって何に対してよ…?」
「何って本当はわかっているんでしょー?ほらほら」
「えっ、何?…達也さんのこと?」
「へぇ。兄さんのことが気になっているんだ〜」
「いやいやいやいや!!ち、ちがっ。違うって!」
「そんな慌てなくていいって。わかっているから」

真奈美は優のことをからかったり、意地悪をすることが好きなのだ。
反応が面白いから、つい悪いと思っていても止まらなくなってしまう。対照的な二人が仲良くしているのもこういう点で気が合うからなのだろう。
たわいのない話を五分ほど続けたところで、優の我慢していた思いが溢れ出した。

「ねえ、真奈美ちゃん。さっきの話って本当なの?達也さんにやりなって言ってあげた話…」
「うん、本当だよ」

「真奈美ちゃんも聞いていたからわかると思うけど、成功していないのにアドバイスなんて出来るものなの?わ、私はやっぱり聞くなら成功した人の話が…いいな」優は不思議そうに聞いた。

「そりゃあ、もちろん私だってそうよ。うまくいかなかった人の経営話なんて聞いていても意味ないじゃない」真奈美はさらりと言い放つ。優は驚きを隠せずこう聞いた。

「そ、それじゃあ、なんで達也さんにあんなこと言ったの?達也さんに失敗しろって言っているようなものじゃない?」

「そうね。その通りだと思うわ」
この言葉に優はつい本音が漏れた。

「ひ、ひどい!!達也さんは今落ち込んだばかりなのに。そ…それに人生だってかかっているのよ」

「仕方ないんじゃないかしら」
優はその言葉聞いて黙り込んでしまった。
真奈美はちょっとからかいすぎてしまった。と思った。そろそろ本当のことを伝えてあげようか。そう思った時である。

達也が顔を真っ赤にして立っていたのだ。
しまった!そうだ!この場所は入り口にいると話し声が聞こえてしまうのだった。真奈美はついからかうことに夢中になり、今さっき自分が体験したことを忘れてしまっていた。

達也は静かに怒りをあらわにした。
「それがお前の本性だったんだな。人のことを憐れみ、笑い切り捨てる。まさか真奈美がそんなやつだったなんて今まで知らなかったよ」

年相応だと気にすることは1ミリもない2へ続く。

 

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