心の在り方

伝えなくてはならないこと

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山本 あやめは人に言えない悩みがあった。本人にはそれが悩みを呼べるものなのか、人に打ち明けて良いものなのか、悩んでいるのはこの世の中で自分だけなのではないかと思い込んでいたので、知らずのうちに言えない悩みになっていた。あやめには仲の良い二人の友達がいる。中学から十五年来の友達、鈴木 由香里(ゆかり)と伊藤 玲子(れいこ)だ。
由香里はズケズケと物を言ってくる空気の読めない存在。相手の事情など御構い無しに自分の要望を押し通してくる。言葉遣いも男のようでガサツなところがある。あまり主体的に行動できないあやめにとって由香里は自分を率いてくれる存在。その点はとてもありがたかった。
反対に玲子はサバサバした性格をしている。予定があるから無理。やりたくないからやらない。と嫌なことは嫌だとはっきりと伝える。それゆえ、友達からの誘いを断ることも多く、由香里からは付き合いが悪いと言われている。あやめとは食べ物や趣味の気がよく合う。その点も由香里とは対称的だ。
それでも、どういうわけか三人はお互いに連絡を取り合い、行動を共にすることが多かった。対称と共感がとてもちょうどよく調和しているのだろう。
あやめ自身もその関係に不思議さを感じていた。
ある平日の夜、あやめは由香里に呼び出され、ファミレスでおしゃべりをした。由香里は玲子のことも呼び出したのだが、断られたようだ。
断るのも当然かもしれない。時間は二十二時を過ぎていた。この日、あやめが自宅に戻れたのは深夜一時過ぎ。就寝できたのは三時を回ってからであった。翌朝というか当日であるが、七時に起床し重たいまぶたと戦いながら、出社の準備をする。
出社中、電車内で仮眠を取るも一日中眠気に襲われ、ろくな仕事ができなかった。こうなることが辛く、その度嫌な気持ちになる。もう少し早い時間から始まるか終わるかしてくれれば、いいんだけどな。由香里に会うたびこのようなことを言っているが、大丈夫大丈夫。今日はそんなに話さないから、と言っていつものおきまりの展開を迎える。たまには断ろうと思うのだが、いいじゃん!大した用事なんてないんでしょ!と押し切られてしまう。
それに辛いことがあったんだよーと聞かされれば断るのにも気が引けてしまい、それでしぶしぶ出向いているのだ。これが、多い月だと毎週一度は必ず呼び出される。玲子は初めのうちはよく来ていたものの、回を重ねるごとに来ない日が多くなっており、最近では全く来ない。
由香里はあいつ最近付き合いわりーんだよな。とブツブツと呟いていた。
ある日の日曜日、玲子からランチに行こうという誘いがあり、由香里は快く承諾の返事を出した。色とりどりの野菜が食べられるおしゃれなカフェが出来たから行こうということらしい。
「さすが玲子!わかってる!」あやめは心躍る感覚を感じていた。
駅で待ち合わせると由香里の姿はなかった。
「だって、由香里は肉食でしょ?!」
野菜なんて草を食うやつの気がしれねえ。そう言って、いつも肉しか頼まない由香里が来るわけもない。だから、初めから声もかけていないらしい。
ちょっぴりかわいそうな気もしたけど、どうせ断られるのならそれも仕方ないかとあやめは思った。
お店の雰囲気はとても良かった。お互い話題も弾み、あやめは居心地の良さ感じていた。玲子とならいくらでも話していられる。この居心地の良さはなんだろう。と、ふと由香里のことを思い出した。
「そういえばさ最近玲子、由香里から呼び出された時こないね?由香里、ぶつくさ言ってたわよ?玲子が付き合い悪いって」
「だって、時間も遅いし話もつまらないじゃない。行くだけ時間の無駄よ」
さすが玲子、さっぱりとしている。そう感心していたら、玲子から質問が来た。
「あやめはなんで毎回行くの?」
なんでだろう。玲子に質問されるまで意識したことがなかった。
「どうしてだろう。なんか由香里がかわいそうだと思っちゃうからかな」
「あんたちょっと優しすぎよ、それ。というか都合よく使われすぎよ」
都合よく…確かにそうかもしれない。由香里は自分の話をベラベラ話すだけで、私が話す間などない。今まで思っていなかったけど、認めなくてはならないのかもしれない。
「あやめはそれで辛くないの?」
玲子にそう言われてあやめはまた考えた。
「正直、辛い」
次の日に支障があること、由香里の都合しか考えられていないこと、それらを玲子に告げた。
「私もそれが嫌で行くのやめたの。あやめもはっきりと言った方がいいわよ。そうじゃなきゃ、いつまで経ってもこのままよ?」
「うん、そうよね。がんばってみる」
それからあやめは直接本人に言おうと思うが、なかなか言えずにいた。
「あのね…」あやめがそう口にする。しかし、由香里は自分の話が終わるといつも満足し、その話はまた今度でいいわとあやめに言うチャンスを失わせていた。うまく言えないとあやめが玲子に言うと、玲子は機会を作ってあげると申し出た。それと、伝えるときは遠慮しないことというアドバイスまで。
直接言うと決意してから二ヶ月が経ったある日曜日、あやめと玲子は由香里をランチに誘った。由香里は休日は出掛けたいから平日の夜にしてよと駄々をこねていたが、そこしか空いていないと告げるとしぶしぶ承諾した。
あやめと玲子は十一時にファミレスに入り、作戦会議を開くことにした。由香里には念には念を入れて、一時間後の時刻を教えておいた。これで安心して作戦会議を開くことができる。あやめも玲子もそう思っていた。
「作戦会議が当日になっちゃったのは不安だけど、一時間もあれば、良い案も浮かぶでしょう。さて。じゃあ…」
「おっす!ふたりとも早いじゃん!」
あやめと玲子が見上げるとそこには由香里の姿があった!予定時刻にもなっていないのになぜ?!お互い驚いたように顔を見合わせると由香里が口を挟んだ。
「おいおい、何をそんなに驚いているんだよ。玲子が十一時がいいって言ったんだろ?」
そんなことはない。あやめにも同時にメッセージが送られており、確認したが十二時と書いてあった。なぜこんな日に限って!!あやめは突然のことに頭がパニックに陥った。こんな状況ではまともに思考などまとめられるわけがない。ただでさえ、事前準備が出来ていないのだから。
あやめはさすがに今日は仕切り直しだと思ったが、玲子が早々に切り込んだ。
「そうだっけ?それよりさ、あやめがね。相談したいことがあるんだって」
席に着くなり、由香里はメニューを見始めている。
「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「えっ?あっ、うん。あっ、すみませーん!このハンバーグ定食を一つ」
店員に注文を終えると由香里がこちらに振り返り話し始めた。
ちょっと聞いてよ〜!こないださ〜!という由香里を玲子が制した。
「あやめが相談したいことあるって言ったじゃない。まずはしっかり聞きなよ」
ほらっと玲子があやめに向かって言う。
あやめは慌てて状況を整理しながら、ゆっくりと話し始めた。
「あのね…」
言いにくいんだけど…と言おうとした時、はっきりと言うことという玲子のアドバイスが頭をよぎった。
「あのね、夜に会うのが辛いの。肉体的にも精神的にも。次の日に支障が出るのよ。それがすごく嫌なの。だから、次回から私も夜は行けない」
「はぁ?そしたら私の悩みは誰に打ち明けたらいいのよ!私がこんだけ悩んでいるって言うのに!」
「それは、わからないわ。ただ、私は辛いの。由香里はスッキリするかもしれないけど、私は時間を盗られたってしか思えないのよ」
「あんたが辛いかなんて知らないわよ!私はどうしたらいいわけ?!」
「だから、それはわからないわ。それに私のことを考えてくれていないなら、別に他の人でもいいんじゃないの?」
「他にいないからあんたに頼っているんでしょうが!」
「それは頼るとは言わないと思う。頼るにしても相手の時間を奪っているという意識を持たなくては、成り立たないわよ。相手のことを何も考えないのなら、単なる人形よ!」
「何よ!屁理屈ばっかりこねて!どうせあんたら二人で私のことを罠に嵌めたかったんでしょう!友達だと思っていたけど、あんたらなんて友達でもなんでもないわ!気分悪い!私帰る!」
ボロボロと涙をこぼしながら、由香里は走り去っていった。あやめは慌てて玲子に問いかける。
「私、言い過ぎた?!追いかけた方がいいよね?!」
「うん、よく頑張ったね」
それから玲子はこう言った。
「友達じゃないから別にいいでしょ」
思っていることははっきりと伝えよう。特に嫌だということは嫌だとはっきりと伝えること。伝えなくてはいつまでたっても状況に変化が訪れることはないのである。
はっきりと伝えることで相手が離れていくことがある。ただ、それはそれで嫌な思いをしなくなる。結局良い方向に転がるのだ。
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