心の在り方

ぶっ飛び経営者【4】選択の時

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家に着いてもこの話題が頭から離れることはなかった。
大きな失敗をした。
このことが頭をよぎるたび、胸が苦しくなる。
しばらくの間、小金井はそのことに支配されていたが、次第に考えを張り巡らし始めた。
どうしてこうなってしまったのだろう。一体なにが原因でこんなことが起きてしまったのだろうか。
ディレクターが外注の俺なんかにやらせるから悪いんだ。そうだ、俺は悪くない。
いや、そんなことを言ってはいけない。ビッグチャンスを活かしきれない自分が悪いんだ。
…そもそも、思えば少し傲慢になっていたのかもしれない。大した能力もないのに、プロジェクトがうまくいきそうだからと自惚れて。市場評価が良かったからといってろくに努力もせずに提案して。
ただ、それでも失敗は避けられなかったのかもしれない。競合他社の参入。それも圧倒的低価格。これだけ多くのことを頑張り抜いてきたが、あっという間に蹴散らされてしまった。自分一人の力なんて組織と対抗すれば、その力の差は歴然だ。はっきり言って自惚れていた。それを自分の利益ばかり追求して……。
とにかくこのままではダメなんだ。同じことをやっていてはダメだ。だからといって、なにができる?一体なにをしたらいいのだろうか。
しかし、その答えはいくら探しても見つからなかった。
翌朝小金井が出社すると、いの一番に佐野の元へ向かった。
「佐野、先日はすまない。すでに知っていると思うが、ご覧の有様だ。これは自分が招いた結果なのかもしれない。そこで今後は手を貸してもらいたい。と言っても今はなにも策が浮かんでいないのだが」
「ああ、聞いたよ。まあ、その、俺もすまなかった。大人気ないことをしちまったよ」
佐野も反省したように返事をする。とそこへ黒田 理絵が話しかけてきた。
「小金井さん、聞きましたよ。プロジェクトが他社に乗っ取られてしまったって」
「ええ、そうなんです。情けないことにやられてしまいました」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫とまでははっきりと言えませんが…。ただ、これから反撃の狼煙を上げようかとは思っています」
「ほっ、それはよかった。最近、小金井さんの記事面白かったのに、潰れてしまったらもったいないなって思っていたところだったので」
黒田のこの言葉に小金井は思わず反応する。
「…えっ?!今なんて!?」
「えっ!?だから、潰れてしまうのはもったいないなーって」
「いや、そこじゃなくて!記事が面白かったというところ!もっと具体的に教えて!」
「あっ、そこでしたか!そうですね、なんというか最近の小金井さんの記事は吹っ切れているというか尖っているというか。前みたいに当たり障りのない記事を書くのではなく、記事に鋭さを感じて、それがとても面白かったんですよ。ねえ、佐野さんもそう思いませんでした?」
 
「ああ、確かに。最近の小金井の記事は面白かった。好きな人だけ来い!っていうあの感じ?あれすげー良かったよね」
と、この瞬間小金井の中で突然世界が開かれた。
「それだ!!」
小金井は「ありがとう二人とも!」と言って、さっさと自分のデスクへと戻っていった。
小金井はすべての記事を振り返り、確信を得る。
これを持って提案しに行こう!
そのひらめきに感謝し、勢いよく立とうとした時、またしてもある思いが小金井の中を交錯する。
これをやるということはその個人が目立つということだ。本当に面白いという理由だけでやるのか?自分があれほど恐怖におののいていたことを人にやらせるのか?
自分に出来ないことを人にどうやらせるというのだ?自分は出来るのか?
しかし、小金井は決断する。
小金井はディレクターの元へ向かった。
「ディレクター!」
小金井はディレクターを見かけるや否やすぐに声をかける。
「お話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうしたって言うんです?今は先日のことで頭がいっぱいなんですよ」
ディレクターは頭を抱える仕草を見せる。
「その打開案を考えたんです!!」
小金井の並々ならぬ勢いに、何かを感じ取ったディレクターは「聞く価値はありそうですね」と言い、小金井を応接間へ通した。
「取材したインタビュー記事はもうすでにご覧いただいていたかと思いますが、アクセス数は順調に推移していると伺っております」
「このプロジェクトをやり始めてから小金井さんの記事はとても面白くなりましたよね。素晴らしい成果です」
この言葉を受けて、小金井は核心に迫る。
「ディレクター、実はあれは私の力なんかでは全くないのです。私はただ、ある方々から教わって面白いと感じたことを記事に取り入れただけなんです」
「それは?」
「はい、それは自分の独自性を包み隠さず、全面的に押し出すこと。これを今回のインタビュー記事では強調して書きました」
「それが打開策とどう繋がるのです?」
ディレクターは首を傾げて質問した。
「それを社のPRとして売り出すんです!実は本筋とは外れていると思っていたので、記事には一切書きませんでしたが、私が調査した中でとても面白い人と思った人はその独自性を全てさらけ出していた人たちでした。
最初にお会いした人なんてクルーザーを買いたいって言っていたのですよ?次の人は若い青年なのに、会社を十社溶かしたって笑って言ってましたし、その次の人は……」
小金井はこのぶっ飛んだ経営者たちの考えや行動をディレクターに事細かに話した。
「ははは、確かにその人たちは思考
がぶっ飛んでいてとても面白いですね」
小金井が中城の前で思わずにこやかになってしまったのと同様の笑顔をディレクターは見せた。
「ね?面白い人たちですよね?これを記事にするんです。それでその人をその会社を好きになってもらう。それがPRにつながる。という戦略です」
小金井は真剣眼差しで提案する。
「ただ…」そういうとディレクターは真剣な顔でこう続けた。
「それに抵抗する人もいるんじゃないですかね?自分を出すことが恥ずかしいと思う人が」
ディレクターの言うことはもっともだった。そこで、小金井はこう提案する。
「…それはその抵抗が取り去られるように私が出せる、とびっきりのエピソードを書き続けて、やってみることが面白いと思ってもらえるようにします!」
「うぅん」とディレクターは口元をつまみ頬杖をついて考え始めた。しばらく時間が経つ。そして、ゆっくりと話しだした。
「やるだけやってみましょうか。コンセプトは面白いと思いますし。
すでに他社にやられてしまった個人事業主ではなく、そういった人たちからアピールしてみましょう。その方が勝算が見込めそうです」
ようやくディレクターは重たい腰を上げ、決断する。そこで、小金井はある過ちを思い出した。
「ただ、前回少し失礼なことをしてしまいましたので、話を聞いてくれるのか…申し訳ありません!もう一度頭を下げてお願いしてみます」
小金井は自分の犯した過ちの大きさに申し訳なさでいっぱいになった。
「…過ぎたことは仕方ありません。全力を尽くしてみてください」
ディレクターは今できることに集中するよう促した。
「それと…」
「なんでしょう?」
「それと、次はチームでやらせてください。需要は必ずあります。もう次はスピードで負けるようなことはしたくありません。佐野と黒田さんと組ませてください!私にはチームが必要です!」
小金井は堂々と提案した。この戦いにはもう負けたくないという意思が感じられる。それを察したディレクターは腕を組み、考えた後こう言った。
「前回と同じ轍を踏むのも辛いですからね。ただ、もう負けられません。死ぬ気でやりに行く覚悟はありますか?」
「はい!それはもちろんです」
打ち合わせを終え、小金井が席を立とうとした。
その時、ディレクターがこう声を掛けてきた。
「その経営者の方、取り合ってもらえるよう私も同行いたしましょうか?」
真剣な眼差しに思わず、小金井は「はい!」と答えそうになった。
しかし小金井は踏みとどまり、こう言った。
「ありがとうございます。ですが、私にやらせてもらえないでしょうか?もちろん…責任はしっかり取らせていただきます」
ディレクターも小金井の真剣な眼差しに納得し、任せることにした。
「失礼します」と言い、小金井は応接間を離れた。
続いて小金井は佐野と黒田にこのプロジェクトの内容を話した。
二人はとても驚いていたが、共にやってやろうという意気込みを見せた。
難点は一つ。先にも述べた通り、中城に失礼な態度を取ってしまっていたということだろう。事実あれ以来、中城から一度も連絡をもらっていない。今さら何と言って連絡を取れば良いのだろうか。あれこれ考えたくなったが、その前に行動した。
「大変ご無沙汰しております、小金井です。突然のご連絡大変申し訳ございません。以前、ご連絡いただいた際の失礼な態度をお詫びしたいと思いまして、お電話かけさせていただきました」
小金井は誠心誠意、謝罪に努めた。
しばらく沈黙が続く。この沈黙の間に小金井はもう今さら巻き返すことはできないのかと後悔の念を抱いていた。たとえ、激怒されたとしても最後まで謝り続けよう。不義理をしてしまったことは心から詫びなくては。もう二度と関係の修復が不可能だとしても謝り続けるんだ。様々な思いが小金井の心に入り込んでくる。
・筆者作田勇次アカウント 
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